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第7話 ローターの所有権は俺にある
「ん……」
柔らかく心地良い甘いにおいがする。
「あ、委員長。大丈夫?」
「……わっ!さ、佐野くん!」
佐野の腕の中で眠っていたようだ。思った以上に大きく、ゴツゴツとした触り心地だ。そういえば、佐野はクラスの中でも背が高い方だったか。
俺はいつの間にかしっかり制服を着せられ、全身から流れていた汗も引き、何事もなかったかのような出で立ちになっている。
「体調大丈夫…?ごめん、やりすぎた…」
佐野の謝罪を聞いて、いろいろと思い出してきた。あんな恥ずかしい格好、言葉、表情……それを学校で、しかもよく知りもしない同級生と…。
「あ、ああ、問題ない」
問題大有りだ。
「……それより、今何時だ?」
さまざまな立ち直れないことが起こったが、今は午後の授業の方が重要だ。昼休みはとうに過ぎたはずだ。その後意識を失い、どれくらい時間が経ったのだろうか。
「もう3時過ぎだよ」
「えっ!」
昼休みから2時間以上もここにいるのか。確かに、よく眠ったからか怠さが取れた気がする。ただ、こんな形で初めて授業をサボってしまった。
「大丈夫。委員長が体調不良で倒れて、俺が保健室まで付き添ったって、ユイが先生に言ってくれたから」
「あ、ありがとう……」
「先生、心配してたって」
授業とは、こんなにあっさりとサボれるものなのか。佐野はサボり慣れている感じだな。
それよりも、その「ユイ」というのは彼女なのか…?だとしたら、さっきの俺との行為はまずいんじゃないか。
「それでさ…聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
佐野は俺から少し距離を取り、姿勢を正して訊ねた。
急に改まった態度に少々驚いたが、すぐに合点がいった。佐野は、俺との行為を彼女に黙っておいて欲しいのではないか。
「問題ない。先ほどの行為については、佐野くんの彼女の『ユイ』さんには黙っておく」
「え?…あ、ユイは友達だから大丈夫」
どういうことだ。普通、友人とセックスするものなのか…?それとも今時の高校生にとっては、セックスはコミュニケーションの一環で、大したことではないのか。
佐野は正座をして、俺の顔をじっと見つめた。
「委員長って、オメガだよね…?」
……バレている。発情期は終わったはずだが、セックスすると自動的にバレるものなのか?でも、俺は佐野がオメガなのかベータなのか、はたまたアルファなのか、分からない。
「違うよ。そもそも、もう最近はオメガはいないんじゃないかな?」
なぜ気付かれたのか分からないが、ここは白を切るしかない。佐野にオナニーがバレ、その後セックスをしてあられもない姿を晒し、しまいには俺がオメガだと知られるなんて、こちらの分が悪すぎる。
それに、実際オメガはほとんどいない。新出生前診断でオメガ・ベータ・アルファが分かるようになったのは、もう30年以上前だ。最近ではその精度が上がったこともあり、オメガだと分かった時点で出産を諦める人が多いのだ。
俺の両親は検査を受けなかった。俺が生まれてオメガだと分かっても、愛情豊かに育ててくれている。俺は、両親が産んでくれたこと、育ててくれていることに感謝している。ただ、発情期後の爆発的な性欲には困りものだが…。そのせいで、佐野とこんなことになってしまったのは事実だ。
「……そうだよね。ごめん、変なこと言った」
佐野、嘘を吐いて悪い。だが、今までオメガであることを隠すために、常に成績上位をキープしてきたところもある。もちろん、それだけが目的ではないが、自らオメガであることを開示しようとは思わない。
「よし、じゃあ委員長の家まで送って行くね」
「いや、大丈夫だ。1人で帰れっ…わっ…」
「危ない!」
立とうとしたが、全く足に力が入らない。セックスとは、何て重労働なんだ。佐野が俺の身体を支えてくれなかったら、倒れていた。
「やっぱり送ってくね。あ、今日のことは2人だけの秘密ってことで」
見上げた佐野の笑顔は、見惚れるほど端正な顔立ちに見えた。佐野という男のことをあまり意識したことがなかったが、よく見ると俗に言う「イケメン」という類の人間のようだ。
「あ、ああ。分かった」
「それと、このローターは預かっとくね。使いたくなったら、俺に声かけて」
「なっ!」
佐野の左手に俺のピンクローターがしっかり握られている。ローターをプラプラと揺らして見せびらかす姿は、俺のことを挑発しているとしか思えない。
「……返して欲しい」
「預かっておくだけだから。ほら行こう!」
佐野は俺の言葉を聞いていないのか、聞く気がないのか、ヘラヘラと笑いながら流している。共犯とか言いながら、やはり俺の方が弱みを握られていて立場が弱い。
とにかく今は考えるのは止めておこう。悪いことしか思いつかないし、歩くことに集中した方が身のためだ。
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