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第19話 佐野と俺と井沢の距離

——ズチュッ、ズチュッ、ズチュッ、ズチュッ、ズチュッ… 「佐野…もっと奥…きて…」 「もっと奥って…奥にトゲトゲローター入っちゃってるじゃん。先端に刺さって、強く挿入できない」  今日は体育祭だ。だが、俺と佐野はセックスに打ち興じている。俺は抑制剤の副作用として、発情期後に猛烈な性欲に襲われる。運悪く、今日がその日なのだ。 「ひゃっあ…っぁあ!」 「ねえ、りょう…声もっと抑えて」  いつ人が来るかも分からない裏庭で、佐野に立ちバッグで抱かれている。佐野の左手が口を覆っているが、それでも喜びの声は止められない。 「んっ…む、りっ…気持ち、良すぎってぇ…あっあぁぁぁぁ!」  後ろの窄まりの潮吹きが止まらず、佐野の腰の動きに合わせてバシャッ、バシャッ、バシャッ、バシャッと、潮が漏れ出る音が聞こえる。 「中、すっごい……どうなってんのっ…もう、イキそっ…」  窄まりの中には、激しく動き回るローターが2つ入っている。しかもイボが付いているので、以前のものよりも刺激が強い。  ローターが内壁をウネウネと波立たせ、佐野の高まりを何度も刺激しているようだ。 「ひゃっあん!っん、佐野っ…強っ……いっあぁ…」 「うっごめ…もう無理っ……イクっ…」  バシャッ、バシャッ、と佐野の腰が全身を強く打った後、高まりから佐野の欲望が溢れ出た。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……りょう…大丈夫…?」  佐野は俺に声をかけながら、後ろの窄まりからローターを抜いて、身なりを整えてくれた。 「…んっ…はぁ、はぁ…も、問題ない」  俺はあまり体力に自信がないので、本当は体育祭中にこんなことはしたくない。だが、やはりド変態なので自身の性欲は止められない。疲れているはずなのに、いつでも佐野を誘ってしまう。  一方佐野は、体育祭の出番がクラスの誰よりも多いはずだが、全く疲れを見せていない。むしろ肌艶が良く、活気にあふれているようにさえ見える。 「さあ!この昼休憩が終わったら、待ちに待った二人三脚だ!やったー!皆の前でりょうとイチャイチャできるー!」  佐野は二人三脚=イチャイチャすることだと思っているようで、満面の笑みだ。 「ああ、それなんだが、言い忘れていた。二人三脚は基本的に男女ペアだから…」 「ええっ!?嘘でしょ?じゃ、じゃあ、りょうと一緒に走れないってこと…?」 「そうなるな。いや、知っているものかと思っていたんだが」 「知らないよ!どうして選手決めのときに教えてくれなかったの!」  佐野は涙目になっている。本気で怒っているようだ。佐野は、二人三脚で俺と一緒に走ることを条件に、クラス対抗リレーへの出場を承諾してくれた。  しかし、今までの体育祭を見ていれば分かるように、二人三脚は基本的に男女ペアとなっている。 「悪い。結果的にだます形になってしまった。あれは冗談で言っているのかと …」 「冗談なわけないじゃん!なんで男同士のペアはダメなの?」 「ダメではないが、慣習で…」 「もういい!」  プンスカ、という言葉が合うような怒り方である。佐野には悪いが、かわいらしいと思ってしまう。  選手決め後、俺は男同士で二人三脚に出られるように、体育委員にかけあおうとした。しかし女子2人から『佐野くんと二人三脚に出たい』という申し出があったので、じゃんけんで勝った方に出てもらうことにした。  やはり男女で出た方がその場が盛り上がるし、クラスの女子の体育祭に対するモチベーションも向上するだろう。  佐野は文句を言いながらも、二人三脚に出場する選手の集合場所に向かっていった。俺は役員席に座り、佐野の出番を見守ることにした。  二人三脚の最終組が走り始めたので、佐野を応援する。佐野と一緒に走っている女子は、嬉しそうに顔をほころばせている。また、応援するクラスメイトも楽しそうだ。  やはり俺の選択は正しかった。だが、なぜか胸の奥がチクチクと痛む。佐野と女子が楽しそうにハイタッチをしている姿を、俺は喜べないでいる。正しい選択をしたはずなのに、ドロドロとした黒い感情が自身を支配する。  ——嫉妬、なのかもしれない。だが今は、学級委員長としてやるべきことが山ほどある。この感情とは向き合えない。  その後も順調に競技は進み、いよいよ最後のクラス対抗リレーとなった。どの学年も最も盛り上がる競技だ。  足が速い佐野は、もちろんアンカーだが、その1つ前のランナーは井沢だ。あの2人、喧嘩せずに問題なく終わることができるのだろうか。  パン!というスターターピストルの音とともに、多くの生徒や保護者の声援でグラウンドは埋め尽くされた。俺も声援を送りながら、佐野と井沢を注視する。  2人は、話すどころか目も合わせず、自チームを応援しているだけのようだ。こちらの杞憂であった。  あまりにも視線を送り過ぎたのか、佐野と目が合った。距離にして100メートル以上は離れていると思うが、佐野のパッと花開くような笑顔がはっきりと見えた。  自分の心臓が耳元にあるように、強く速く脈を打っている。誰よりも輝いて見えるのは、佐野が明るい陽キャだからだろうか。佐野は俺に向かって大きく手を振っている。小さく手を振り返して応えると、佐野はさらに破顔した。  目が離せなかった。  その後、ほぼ最下位でバトンを渡された井沢が一気に追い抜き、3位に順位を上げた。そしてアンカーの佐野にバトンが渡ったとき、グラウンド中の人から大きな歓声が上がった。  佐野は、沸き立つグラウンドを颯爽と走り抜け、その大きな身体を生かして前を走るランナーを追い抜いていく。グラウンドの熱気が最高潮に達したとき、佐野は1位でゴールした。  地鳴りするような大歓声が上がり、佐野の周りはたくさんの生徒であふれかえった。  先ほどはあんなに近くに感じた佐野の笑顔が、今はどうしてかすごく遠く感じる。俺のクラスは、惜しくも総合優勝は逃したものの、学年では1位を獲得。各々がさまざまな感情を胸に抱き、体育祭は幕を下ろした。  閉会式後は体育委員の片付けを手伝い、忘れ物の整理などの雑用に追われていた。長時間外に居たので、身体はものすごく疲れているが、内奥の欲望は佐野を求めている。  だが、佐野も疲れているだろう。自身の性欲処理に佐野を付き合わせてはいけない。今日は自慰行為で我慢しよう。  雑用をさっさと済ませ、ローターが入ったバッグを持ち、校内のトイレに向かう。その途中、先ほど佐野と行為に及んでいたあの裏庭から、女子の声が聞こえてきた。 「さっきは一緒に走れて、しかも1位でうれしかった」 「うん、俺も楽しかったよ」  女子が話している相手が佐野だと気づき、なぜか物陰に隠れてしまった。 「私、実は…ずっと前から、佐野くんが好きでした。もし良かったら、付き合ってくれませんか?」  他人の告白を盗み聞きするなんて、俺は学級委員長としても人としても、間違った行為をしている。  だが、足が動かない。佐野はこの女子と付き合うのだろうか。そうしたら、俺と佐野の関係も自然と終わるのだろうか。 「そうだったんだ、俺そういうの疎いから全然気づかなかった。素直にうれしいんだけど、ごめん。好きな人がいるんだ」  好きな人…?初耳だ。俺は佐野と淫らな行為をするばかりで、佐野がどんなものや人が好きなのか知ろうともしていなかった。 「そっかー、残念。でも何となく分かってた。これからは友達として接してくれるとうれしいな」 「うん、もちろん!」  その後2人は仲良く雑談をしながら、校門の方へと歩いて行った。佐野もあの女子も、さわやか過ぎる。  俺は、恋愛は勉学の邪魔でしかないという考えだ。佐野との行為については恋愛を伴っておらず、有り余る性欲を解消できるので問題ないと思っている。  だがなぜか分からないが、あの女子のことがうらやましい。佐野に自分の気持ちを伝えて、今後の関係についての希望にも言及している。立派である。  俺は佐野とどうなりたいのか。このまま身体だけの関係でい続けても良いものなのか。もし佐野に彼女ができたら、俺はどうすれば良いのだろう。  考えても分からないことは、本人に聞くのが一番だ。だが、なぜか佐野に聞くことができないでいる。俺は何を恐れているのだろう。 「こんなところで何ぶつぶつ言ってんの?」 「わっ!」  すっかり自分の世界に入ってしまっていたので、後ろから声をかけられて驚いた。 「い、井沢くん。お疲れ様」 「おつかれ。で、何してんの?こんなとこで」 「いや、なんでもない」  物陰に座り込んで、心の声を呟いてしまっていたようだ。最近、佐野に本音を言うようになったせいか、気づかぬうちに心の声が口から出てしまっているときがある。気をつけなければ。  立ち上がり、再度校舎に向かおうとしたとき、グッと手首を掴まれた。 「んっ!」  振り返ると同時に、井沢の唇が自身の唇と重なった。 「なっ、何するんだ!」 「佐野とも同じことしてたじゃん。俺も同じアルファなんだから、してもいいだろ?」  井沢にいつ見られたのだろう。だが良く考えれば、佐野と学校で口付けやそれ以上のことを何度もしているので、誰かにどこかで見られていても不思議ではない。 「……俺は、誰とでもこういうことをするわけじゃない」 「ふーん……じゃあ、佐野のことどう思ってんの?」 「それは……そ、それよりも、なぜそんなことを井沢くんに言わないとならないんだ?」  井沢が何を考えているのか分からない。そんな奴と、人気がない裏庭にいることに急に恐怖を感じた。  後退りをして、井沢と距離と取ろうとするが、逆に井沢は前へ進んで俺との距離を詰めてくる。 「やっぱり、佐野のこと好きでもなんでもないんじゃん。アルファだからヤってるんだろ?だったら俺でもいいじゃん」  井沢と俺との距離がどんどん縮まってくる。ドンッと背中に壁が当たり、いよいよ逃げ場がなくなった。 「や、やめろっ」  再び井沢が口付けをしてきた。両肩をすごい力で押さえつけてくるので、身動きが取れない。  井沢の舌が、俺の口内を動き回る。不思議なことに全く気持ち良くない。佐野と同じ行為をしたときは、とろけるような気持ち良さが全身を駆け巡ったというのに。 「い、ざわくっ……やめ、やめてくれっ…」  とにかく早く終わって欲しいという気持ちしか起こらない。井沢から逃げる方法を考えなければならないのに、佐野のことばかり思い出してしまう。 「おい、何してんだよ」  佐野の声がしたかと思うと、口から井沢の舌が消え、肩の圧迫感がなくなった。目を開けると、芝生の上に井沢が倒れていた。  佐野が井沢を地面に叩きつけたのか、井沢はゴホゴホと咳をして苦しそうにしている。 「佐野!」  安堵感が一気に押し寄せ、なりふり構わず佐野に抱きついた。それに応えるように、佐野はぎゅっと抱き返してくれた。  俺は紛れもなく、佐野のことが好きなんだ。

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