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第39話 死ぬほど好きな証

 佐野が試合で活躍し始めると、日本国内でもニュースとして取り上げられることが多くなった。その整った容姿も相俟ってファンが増えているようで、わざわざ日本から米国に試合を観にくる日本人の姿を見かけるようになった。  こうなると気になるのが、あの忌まわしい事件のことだ。あのとき刺された少年が、いま米国で活躍している佐野だということが明るみにならないだろうか。ぼかしが入っているとはいえ、俺の写真は未だにネット上にあふれている。俺と会うことが、佐野の未来を暗くしないだろうか。  俺が憂慮している中、当の本人は全く気にしていないようで、俺の家に来ることが多くなっていた。 「え!?井沢もこっちに来るのか?」 「うん。俺とは別の大学だけど、留学決まりそうなんだって」  レポートを作成する俺の傍で、佐野はベッドに横になりながらバスケットボールを回している。その佐野の口から高校の同級生、井沢春久の近況が語られたのだが、驚いたことに米国に留学に来るようだ。 「…井沢とはまだ連絡取り合ってるんだな」 「うん。幼馴染だし、一番のライバルだし」 「ライバル?」 「うん、バスケのね」  上に投げたボールが、佐野の手に引き寄せられるように綺麗に落ちて行く。なんだかマジックを見ているようだが、佐野にとってはなんて事ないのだろう。表情は全く変わらない。 「俺の記憶では、井沢はバスケ部を辞めていたはずだが」 「ああ、そっか。りょうは留学してたから知らないか。あの後、春久はバスケ部に戻ってきたんだ」  そうだったのか。あの時の井沢は『佐野の隣にいるのが辛い』と言っていたが、心境の変化でもあったのだろう。佐野と共にバスケに打ち込んだ青春を送ったのか。  それを知り、俺の心は温かくなった。あの事件後、井沢が佐野の隣にいてくれたことが単純にうれしかった。 「じゃあ、佐野と井沢が対戦することがあるかもしれないのか?」 「そうなるね。……え、まさか春久のこと応援しないよね?俺のこと応募してくれるよね?!」 「うーん……悩ましいな」 「ねえ、なんで!?そこは即答しなきゃでしょ!」  佐野はいつもすぐ嫉妬する。その必要は全くないのだが、怒った顔や仕草が子供っぽくてかわいらしい。高校生のときと変わらない、佐野の愛おしいところだ。 「あ、そうだ!イチゴパイ、春久にいつも自慢されるんだ。『委員長の手作りパイ、まじ美味かった』って。なんで俺に作ってくれなかったの?」  佐野が根に持つタイプだということは認識していたが、まさか2年前のことをまだグチグチ言ってくるとは驚き入った。  優心の料理の中でも格別に美味なのが、イチゴパイだ。店頭に並んでいてもおかしくないと思っている。それを俺は何カ月もかけて優心に習い、納得する形状、味に作り上げることができるようになった。  高校生のとき、それを佐野に食べさせたくて学校へ持って行ったのだが、タイミングが合わず渡すことができなかった。その直後にあの事件に遭ってしまったのだ。 「あれは、佐野に作ったんだよ。だけど、佐野にはタイミングが合わなくて渡せなかった。ついでと言っては何だが、井沢へは特に考えもなく渡しただけだ」  井沢が、学食ですぐに売り切れるコッペパンをくれたので、そのお礼にイチゴパイを渡した。まあ、ただそれだけのことだ。 「そうなの!?えー…それ春久が聞いたらショック受けるだろうなー」 「そうか?井沢は佐野をからかっているだけだろう。俺に対して何の感情もないと思うが」 「……りょうって、頭いいのに鈍感だよね。そんなところも好きなんだけど」  佐野はベッドから立ち上がり、屈んで椅子に座る俺の肩を抱いた。背中に感じる重さは、佐野が傍に居る現実を実感させる。肩に柔らかな唇が落ち、そのまま互いの舌が引き合って絡み合う。佐野に口付けされてぬれた肩に、暖房のぬるい風が降り注ぐ。 「レポート終わった?」 「ああ」  俺の返事を聞くや否や、佐野は俺を抱きかかえてベッドに向かった。ベッドに降ろすと薄いセーターを捲し上げ、雪が降り注いだ原に実る赤い蕾を口に含んだ。 「んっ…佐野、がっつきすぎだ」 「大人しくずっと待ってたんだよ。ご褒美欲しいくらい」  口を塞ぐように接吻され、俺の唾液を全て飲み干す勢いで佐野の舌が絡んでくる。 「ふぁっ…はぁ…あっ」 「井沢は俺のついでか…うん、いい響きだ。もう一回言って?」  言いながら、佐野は俺のパンツに左手をかけて一気に下げる。既に立ち上がっていた屹立が、弾けるように顕になった。 「だ、だから…早い…がっつかないでくれ」 「でも、もうこんなにグチャグチャ」 「ひゃっあ!…あっん…」  佐野のおっきな手の平が、脈打つ屹立を包んで幾度となく擦る。その指先は先端の割れ目に食い込み、欲望の蜜を屹立全体に伸ばしていく。 「先っぽが真っ赤に充血してる。早く出したそうだね。でももう一回言ってくれないと、止めちゃうよ?」  自身のシャツを脱ぎ捨て、佐野は俺の上に跨った。身体は鍛え上げられ、高校生のときにはない嬌艶さをはらんでいる。  その春情に抗うことなど誰ができよう。 「井沢にあげたイチゴパイは…佐野のついでだから……」 「うん、そうだよね。そうだと思ってた」  佐野は破顔しながら、跨いでいた俺の腰を持ち上げ、屹立の先端から後ろの窄まりまで丹念に舐め始めた。 「あっ…気持ちっ……いぃ……」 「その顔エロ…もっと見せて」  頬を撫でる佐野の指先が冷たい。行為の始めは佐野の手はひんやりとしていて、高校生のときから変わらない。緊張して、感情の動きが激しい証拠だろう。ずっと変わらず純情な男、佐野名津を俺は—— 「ひゃっあっ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、やっ、強っいぃぃ」  ジュグッ、ジュグッと、部屋中に窄まりの卑猥な音が響く。佐野の長い指が内壁を掻き分け、俺の快楽を刺激する。 「すごい締まってる。指が折られそうなくらい。俺と離れてる間、誰ともしてなかったんだね」 「するわけっ…なっ…うあっ…あんっ…」 「なんで?」 「んっあっ…ま、待ってっ…」  指の動きに緩急つけられ、予測できない快楽に自ら腰が動いてしまう。 「ねえ、なんでか教えてよ」 「あっあぁ、む、無理っひゃっ!あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…手止め、てっ…」 「いいよ」  内壁を刺激し続けた指が抜かれたかと思うと、息つく暇なく佐野の高まりが内壁を広げて侵入してきた。 「あ゛っ、ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…止めてって、言ったっ…のにっ…ひゃっあ!」 「だから、指は抜いたでしょ。んっ…相変わらず中やばいな…」  ——バシャッ、バシャッ、バシャッ、バシャッ、バシャッ、バシャッ、バシャッ  波止場に打ち寄せる波のように、佐野と俺の間に互いの愛液がぶつかる。 「あ゛っぁぁぁ、も…止めっ…」 「はぁ、はぁ、あっ…なんで俺以外の人とこういうことしてなかったのか…理由教えてくれないとっ…やめないっ…」  佐野のとろけそうな表情が、俺の脳を痺れさせる。 「忘れられるわけないっ…だろ…あぁっ!い、イキそっ…」 「俺だって…1秒も忘れたことないっ」  内壁を激しく貫かれ、そのまま2人とも絶頂に達した。  激しく呼吸する俺の唇に、佐野はそっと口付けをして横たわった。こちらはまだ快楽に浸っているのだが、佐野はすでに呼吸を整え、清々しささえ感じる。相変わらず佐野の体力はモンスター級である。  右側に横になる佐野をふと見ると、左の脇腹辺りの古傷が目にとまった。思わず撫でている自分にハッとする。 「大丈夫だよ、もう痛くないから」  温かく柔らかな表情で、俺の髪を佐野が撫でている。 「本当に、本当に申し訳ない。ずっとそう思ってきたし、これからもっ…」  俺の口を塞ぐように、互いの唇が触れ合った。 「俺がりょうのことを死ぬほど好きだってことの証なんだ。それ以外には何の意味もないよ」  見上げる佐野の眸は水晶玉のように美しく、俺のありのままを映し出す。いつも鏡で見る自身よりも、はっきりとした姿形でそこに存在している。  耳元で響くくらい、俺の心音が力強く動いている。この高鳴る鼓動が伝わるように、佐野を強くきつく抱きしめた。 「イチゴパイ、今度作って寮に持って行く」 「え、ほんと!?やったー!あ、でも寮には絶対来ちゃダメ」 「部外者は入ってはいけないのか?」 「そうじゃないけど……あそこはアルファの巣窟だから、万が一りょうに何かあったら嫌だから絶対ダメ」  佐野は寮生活を送っている。その寮にはバスケで留学している同級生も多いようだ。スポーツ選手にはアルファが多いという統計データもあるくらいだから、佐野の言う通りなのだろう。 「分かった、今度うちに来る時連絡してくれ。作っておく」 「うん。楽しみだなーこれで俺も春久に自慢できる」  とはいえ、佐野がどんなところで生活しているのかとても気になっていた。佐野のルームメイトにも挨拶したいし、少しくらい寮に行っても問題ないだろう。  佐野は少し抜けているところがあるので(そんなところも魅力なのだが)、自分の目でいろいろと確認しておきたい。  俺の考えていることなど露知らず、佐野は鼻歌交じりに俺の身なりを整えている。 「佐野」  そのご機嫌な唇を奪いたくなって、そっと口付けをした。 「えっ、急にどうしたの?」 「…何でもない」  佐野への想いが溢れて、つい口付けをしたなんて、恥ずかしすぎて言えるわけがない。 「あ、もう1回する?俺何回でもイケる」 「いや……その、悪かった。そういうつもりでキスをしたわけでは…」 「なんでよ、誘ったのりょうでしょ」 「お、おい!勘弁してくれっ」  着直したばかりのセーターを、佐野はまた捲り上げた。そして俺の全身へ唇を落として行く。先ほどの行為でだいぶ疲れてはいたが、佐野に触れられた俺の身体は熱くなってよろこびを表現していた。

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