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第43話「ひみつの恋愛関係」

「あ。大我。口の横、ご飯粒ついてるよ。」  椅子から立ち上がり、俺の頬へと手を伸ばしてご飯粒を取るとそれをぱくっと食べる。お茶目さんで可愛いね、と言われて恥ずかしいのと幸せなのとで口角が緩む。 「ふへへ、ありがと。…じゃなくて!!そ、そそそそんなの言ってくれれば自分で取るし!ベタベタしてくんな、気持ち悪ぃ!」 「相変わらずつれないね、大我。まぁ、そんなところも可愛くて大好きだけどね。」 わざわざ椅子に座っている俺の横に来て跪き、手の甲にちゅっとキスを落とす。握られた手を握り返したい。俺も好きだと伝えたい。それらの衝動をぐっと押し殺して俺はノアの手を振り払った。 「勝手にキスしてくんな!お前と結ばれるなんて天地が引っ繰り返っても絶対ないからな。いい加減諦めろ!つーか、早く飯食え!」 シッシッと手で追い払うと、渋々椅子に座り直すノアは少しだけニマニマと笑っていた。その顔は完全に「結ばれるなんて絶対ないっていいながら僕の事好きになったくせに。」と言っていた。自惚れんなバーカ。…まぁ、実際はその通りなんだけど。   正直この作戦で大変なのは俺だけなのだ。ノアは結婚前も後も何も変わらない。だからピプがいる前でも通常運転で俺に触れたり愛の言葉を言っても問題はない。  片や俺はというと、結婚してからはノアからの愛を返すような言動をしたり、たまに積極的に自分から甘えてみたりするようになったが、結婚前の俺は、近寄るなだの、気持ち悪いだの、お前とは結ばれないだの、酷い罵声ばかりをノアに浴びせていた。正直、演技とは言えどもノアにそんな酷いことを言うのが心苦しい。が、これもノアと一緒にい続けるため。俺は心を鬼にしてノアに罵声を浴びせる。  だが、どうやらノアはその状況を楽しんでいるらしい。俺が結婚前のように罵声を浴びせるとさっきみたいに、毎回にやけるのを必死に堪えている。まぁ、傷つかれるよりはよっぽどマシだけど…。俺だけに降りかかっているこの負担を半分ノアにも背負ってもらうような新しい作戦を早いところ思いつきたいところだ。   完食した皿を重ねて、シンクへと持っていく。キッチンではピプがフライパンから鮭のムニエルをお皿へ移そうとしていた。お前に食べさせるものはない!なんていいながら、ちゃんと毎日ピプの分も作っているノアは優しい。 「魚焦げてるピプ…。」 「ノアが作ってくれたんだから文句言わずにちゃんと食べろよ。焦げたところ以外は上手いから。」 「はいはいピプ。それにしても、ノアも可哀そうピプねぇ。」 ぷぷっと笑いながらピプが言った。可哀そう?何が?何の事を言っているのかわからず俺は無言で首を傾げた。 「大我の家に転がり込んできてもう5か月が経つピプのに、今もまだ大我に好きだのなんだの言って。大我がノアのことを好きになるわけないピプのにね。ぷぷぷっ。」 口を抑えて大笑いしそうになるのを我慢しながらクスクスと笑ってノアを馬鹿にするピプ。動揺で心臓がドクンッと飛び跳ねた。小学生の頃、20点のテスト用紙を勉強机の引き出しの奥底に隠していたのを母さんに見つかりそうになったひやひや感を同じ感覚。 「なっ・・・なぁ!本当だよなぁ!ははっ、頭悪すぎだよなー!」 ガハハッと大袈裟に笑って誤魔化すと、俺はお風呂へと逃げた。頭から冷水シャワーで浴びて冷静さを必死に取り戻そうとする。 「大丈夫ばれてない、大丈夫ばれてない、大丈夫ばれてない、大丈夫・・・はっくしゅん!」 真冬に冷水シャワーは流石に死ぬかと思った。俺はシャワーを止めて温かいお湯が並々と張られた湯船に目の下ぎりぎりまで浸かった。あー、極楽極楽。 お風呂から出てリビングへ行くと、洗い物を終えたノアがソファーに座って本を読んでいた。 「ピプ帰ったのか?」 「あぁ、たった今ね。魚が焦げていると散々文句を言われたよ。」 本は開いたまま、顔だけ俺の方に向けて眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をするノア。文句言わずに食えって釘を刺しておいたのに。本当にあいつはデリカシーのない生き物だ。 「誰だってうっかりすることなんていくらでもあるんだから、そう気にすんなよ。焦げてても美味かったし。」 ノアの隣に腰掛けて、慰めるように頭を撫でてやると頬をピンクに染める。ソファーの前に置いてあるローテーブルに本を置くと俺の背中に腕を回してぎゅうっと強く抱きつかれた。 「んー、大我大好きぃ。」 頬をすりすりと頬ずりされてくすぐったい。基本は常にかっこいいノアだが、たまにこうして甘えてくる時もある。これは夫婦になってから見られるようになったノアの新しい一面。でも、滅多に見ることが出来ないからかなりレアだ。  よしよし、と頭を撫でてやっていると、ふとノアがテーブルに置いた本に目が留まる。 「ノア、何読んでたんだ?」 俺がそう問いかけると、俺から体を離して本を手に取る。 「ロミオとジュリエットだよ。初めて地球に来た頃に1度読んだことがあったんだけど、どんな話だったか忘れてしまったからもう1度読みたくなってね。」 「ロミジュリかぁ。懐かしいなぁ。俺、高校生の文化祭の劇でロミジュリやったぞ。」 たわいもない話のつもりでさらっと言った俺の言葉に、ノアは異常なほど反応して、俺の肩をガシッと強い力で掴むとすごい剣幕で大声を上げた。 「ロミオ役は、大我の相手役は誰だ!」 そんなバトル漫画のワンシーンみたいな気迫で言われても・・・。 「なんで俺がジュリエット役ってことになってんだよ。お前は馬鹿か。俺は小道具担当。俺みたいなモブが舞台に立てるわけないだろ。」 えいっとノアの頭に軽めのチョップを食らわすと、ノアはへなへなと力が抜けていき、よかったぁ・・・とほっと胸を撫で下ろす。 高校生の時にやった劇は30分で話を収めるために重要な部分だけを掻い摘んだオリジナルストーリーだったけど、原作のラストはどんな結末なんだっけ?確か、劇の台本のラストは2人で駆け落ちして幸せに暮らしたはず。

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