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第45話「仲直りのチュー」

ノアの手に握られてある本をひょいっと奪って、最後らへんのページをぱらぱらと捲る。本なんてほとんど読んだことないから文字の羅列のせいで眠気が誘われる。 「最後は2人とも自殺して終わりだよ。」 俺の知っている結末と違って、原作はあまりにも残酷な結末だと知り俺は驚きの声を上げた。 「仮死状態のジュリエットが本当に死んだと勘違いしたロミオは毒薬で自殺するんだ。そして仮死状態から目覚めたジュリエットは隣で死んでいるロミオを見て、自分もロミオの後を追って短剣で自分の心臓を刺して自殺する。・・・切ない話だよね。」 「・・・なんでそんな悲しくなるようなバッドエンドの話なんて読んでんだよ。もっと楽しくなるような本なんていくらでもあるだろ。」 「んー・・・僕達に似てるなって思って。」 ノアの言葉につい俺はカッとなった。 「似てねぇだろ!死ぬとか、冗談でも言うなよ!」 ノアの腕を勢いよく掴んで当然大声をあげた俺に、ノアは目を大きく開いて驚いた。確かに俺の命は仮のものだし、ノアとは殺し合わないといけない関係で、今の幸せな生活が何もせずともずっと保証されているわけじゃない。  いろいろ問題は山積みで、乗り越えなきゃいけない壁は数え切れないほどあるけど、でも、ノアを殺さなくても俺が本物の命を取り戻せる可能性だってあるかもしれないし、ノアも父親からの呪縛が解かれて地球侵略なんてやりたくもないことをやらなくていい日が来るかもしれない。そういう未来を生み出せる方法がどこかにあるかもしれない。  俺はそう信じている。それなのに・・・自殺で2人共が死ぬ悲劇の話と俺らが似ているだなんて・・・。ノアの腕に指が食い込むほど力を入れている俺の手にそっと触れる。 「ごめん、言葉足らずだったね。そういう意味じゃないよ。ロミオとジュリエットは結ばれてはいけない者同士でありながら、運命的に惹かれあって恋に落ちる。そんな赤い糸で結ばれた恋愛をしているところが僕達と似てるねって、そういうつもりで言っただけだったんだ。勘違いするような言い方をした僕が悪かったよ。」 ふっと力が抜ける。なんだ・・・そういう意味か。俺はてっきり・・・。ほっと安心した後、数秒後に怒りの感情が湧き上がる。ノアの胸を少し強めにドンッとグーで殴って、ぷいっと背中を向ける。 「紛らわしいんだよ、ばーか!会話の流れ的に自殺エンドが似ているって言ってるのかと思うだろ!だいたいお前は言葉が足りないことが多すぎんだよ!」 腕を組んで怒る俺を後ろから抱きしめて、何度もごめんと謝るノア。許さない、今回ばかりは絶対に。 「だいたい、最近お前、ずっと元気ないから余計に変な方向に考えちゃうんだよ。さっきご飯中だって、『もし死んだとしても――』とか言い始めるし。お前が死ぬんじゃないかと思って不安になんだろ、ばかノア。」 「ごめんね。僕、感化されやすいみたい。この本を読んでたらくらい気持ちになっちゃって・・・。」   なんだその理由は。そんな理由でノアは最近ずっと様子がおかしくて、俺はノアが死ぬんじゃないかとか変な勘違いをしていたのか。   いらいらしながらもノアが死ぬことを想像してしまい、辛くて泣きそうになる。泣いてることを悟られないように小さくスンッと鼻をすすると、耳元でくすっとノアが笑った。 「何笑ってんだよ・・・。」 「泣いちゃうくらい心配してくれるのが嬉しくて、つい、ね。」 「泣いてねーし。」 「本当?泣いてない?」 「泣いてない。」 「んー、信じられないなぁ。だから、こっち向いて。」 やめろって!と抵抗したのも虚しく、俺は簡単にグイッとノアの方に体を向けさせられた。 「ほら、やっぱり泣いてる。ごめんね。」 俺の頬を両手で優しく包み込み、こつんっと額をくっつけ合わせる。 「うっせー、見んな。ばかばか、ばかノア。絶対許さねぇ。俺がどんだけ心配したと思ってんだよ・・・。」 「ごめんって。ね、許して?仲直りのチュー。」 唇が重なる。下唇をはむはむと食べるように唇で挟まれる。ん、気持ちいい。危うく許してしまいそうになる。だが、俺の怒りはこんなキスごときで許せれるほど軽いものではない。キスなんかで許されると思うな!とピシャリと言い放つと、ノアは困った顔をした。 「お願い、何したら許してくれる?ねぇ、たーいが。」 右耳をフェザータッチで触れられてぞくぞくする。ぶわっと全身に鳥肌が立ってぶるっと身震いをした。  許さない、許さない、絶対許さない。 何度も頭の中で唱えてちょろい自分を制御する。教えて、と甘い低音ボイスを耳元で何度も囁かれ、ノアは答えがわかっているのだと気がついた。その上で俺に言わせようとしている。だが、今日は絶対俺からは言ってやらない。自分で考えろよっ!と突き放せば、腕を組んで、うーん、とわざとらしく考える演技をする。やっぱり、完全にわかっている。あっ、と何か閃いた顔をするとにやっと不敵な笑みを浮かべた。 「じゃあ大我の気の済むまで、僕がたっぷりご奉仕するよ。だから、ね、許して。」 そう熱を帯びた甘ったるい低い声で耳元で囁かれるだけで、俺の体は期待して奥が疼く。ド変態、と煽ると、お互い様。と返された。

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