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第56話「生まれ変わっても君の隣で」
チュンチュンと、仲良さそうな雀が2羽、空を飛び回って追いかけっこをしている。空は綺麗な青色で、雲一つないお散歩にぴったりの天気だ。
「ほら、ちゃんとママとお手て繋いで。あともう少しで公園つくからね。」
空を見上げていた目線を声が聞こえた方に向けると、優しく微笑むママがいた。
おれの手をぎゅっと握り、中腰になりながらもおれに歩幅を合わせて歩いてくれる。ビルがたくさん並んでいる道を抜け、少し歩くと、大きな公園に辿り着く。よくママと一緒に天気がいい日にやってくるお気に入りの公園。おれは公園に着くと、ママと繋いでいた手をぱっと離して、一目散に遊具へと駆けていく。
後ろでママがこけないようにねー!と言っているのが聞こえたが、それを無視してブランコ目掛けて走ったことで罰が当たったのか。おれは案の定、短い脚を絡ませてどてっと勢いよく顔面から転んだ。う…ふぇ…ふぇえ…と、少しずつ顔を歪ませ、泣き声をあげる一歩手前まで来た時だった。すっと小さな手が地面に這いつくばったままのおれに差し出された。
驚いたおれは、目をまん丸にして差し出された手をみつめて、ぴたっと泣きそうになるのを止めた。
「だいじょーぶ?立てる?」
顔をあげると、心配そうな顔で俺を見つめる琥珀色の瞳。誰かも知らない男の子に突然声をかけられて困惑しながらも、俺はそっと差し出された手を握った。ぐいっと手を引っ張られてその場に立ち上がる。
「あっ、ケガしてる!ちょっとまってね。これ、持っててくれる?」
男の子は自分が持っていた本を半ば無理矢理おれに押し付けるようにして持たせると、ポケットからハンカチを取り出して、おれの擦りむいた膝に丁寧に巻き付けた。本は結構分厚くて割と重たかった。どんな難しい本を読んでいるんだ、と思ってちらりと表紙に書かれてあるタイトルを見てみたが、ひらがながなんとか読める程度の学力しかまだないおれにはカタカナが混ざったタイトルを読むことはできなかった。
「なになに、と、なになに」らしい。唯一読めたのは「と」だけだった。男の子がハンカチを巻き付け終わる頃、おれの後ろからママが駆けてやってきた。大丈夫!?と驚いた声をあげておれの近くにしゃがみこむママ。こくりと頷いて、だいじょうぶ、と返事をした。
「ごめんね、ケガの手当てしてくれてありがとう。ほら、泰雅も男の子にありがとうして。」
「ありがとう。」
ぺこりとおじぎをしてお礼を言えば、男の子はにこっと笑って、どういたしまして!と言った。琥珀色の瞳、綺麗な金髪、透き通るような白い肌。きれい。背はおれとそんなに変わらないし同い年くらいかな。おれと違う目と髪の色、日本人じゃないのかな?でも、言葉は日本語。なんだか気になってしまい、まじまじと男の子の顔を見ていると男の子はぽっと頬をピンク色にして琥珀色の瞳をきょろりと動かしてそっぽを向いた。
「すみません、うちの望愛が!」
男の子の後ろの方から慌てて走り寄ってくる女の人。きっと、この男の子のママだろう。
いえいえ、うちの子が転んじゃったのを助けてくれたんです。 あ、そうだったんですね! お子さん何歳ですか?うちの子は5才です。 え、うちも5才です! あら!じゃあ一緒ですね!同じ小学校になるかもしれませんね。 なんて、おれと男の子の頭上で、ママ同士の会話が広がっていく。そっぽを向いたままの男の子がちらちらとおれの方をみて、何か言いたげな顔をしているのに気づき、なに?と問いかけてみた。すると、おれの手元を指さして、本…。と言った。
あ、そうだ。本持ってって言われて、そのまま持ったままだった。ごめん、返すね。と言って本を差し出したが、男の子はむっと頬を膨らまし何故か不満そうな顔をした。なんで?おれ何かいけないこと言った?意味がわからずにつられて俺もむっとする。すると、男の子は首を横にぶんぶんと振って、左手で俺から本を取り上げると、右手で俺の手をぎゅうっと握った。
「本、一緒に読もう。」
おれの有無を聞かずに男の子はおれの手を引っ張って近くの大きな木の下へと連れていき、俺を座らせてからその横に男の子もどかっと座る。なんて自分勝手な子なんだ…。おれは若干引き気味で男の子の横顔を見ていると、男の子がくるりとおれの方を振り返ってばちっと目があった。
「のあっ!ぼく、望愛っていうの!望愛って呼んで!」
おれが逃げ出さないようにするためか、繋がれたままの手をぎゅうっと強く握りしめる望愛。別に逃げる気は全然ないんだけど…。
「望愛…。わかった。おれ、たいが。泰雅って呼んでいいよ。」
なんとなく、強く握られた手をぎゅっと握り返してみれば、望愛はぼんっと顔を赤くして、たいが、たいが!としつこいくらい何度も俺の名前を繰り返し呼んだ。あまりにもうるさすぎて、望愛の口を塞いでやろうと伸ばした手を望愛にがっちり掴まれ阻止された。
「泰雅…かわいい!ぼく、泰雅のこと、すきっ!!」
顔を真っ赤にして一生懸命な表情で望愛は言った。琥珀色のまっすぐな瞳に見つめられ、吸い込まれるように目が離せなくなる。どくんっと胸が飛び跳ねた。なんだろう、この気持ち。初めてな気持ち。よくわからない、けど…。なんでだろう。初めてな気持ちなはずなのに、なんだか、懐かしいような気もしてる。この気持ち、おれ、知ってる気がする。こういうの、なんて言うんだっけ…えっと、えっと…たしか――
「おれは、あっ、あいしてりゅっ!」
うわぁあ…噛んじゃった、恥ずかしい…。かぁっと顔を真っ赤にして俯いていると、隣で望愛がくすりと笑った。次の瞬間、どんっと右隣から衝突するような衝撃が与えられ、何事かと右を見ると、目一杯腕を伸ばしておれの体に抱き着き、ぎゅうーっと力強く抱きしめている望愛がいた。
「ぼくも泰雅のこと、あいしてるっ!じゃあ、ケッコンしよっか!」
琥珀色の瞳をきらきらと輝かせながらきゅっと目を細めて笑えば、ぽかんと口を開けている隙だらけのおれの唇にちゅうっとキスをした。
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