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第55話「ラブリーマジカルハリケーンエターナル」

俺はルゥガ目指してぐんっと地面を蹴って走る。いつもよりスピードが速い気がする。 それに、力も何だかいつもより強い気が…。地面を蹴って高く跳べば、ルゥガの顔面に向かって剣を振り下ろす。ぐあぁ…と苦しむ声を上げるが、なかなか倒せる気配はしない。やっぱり、そうだ…。俺の力が膨張している。 …そうだ、ノアだ。ノアは最後に、『僕の全てを大我にあげる』と言った。きっと、力や能力のことだったんだ。そうだとしたら…。俺は手のひらをルゥガに向けて開き、ノアがやっていたのを見よう見まねでやってみる。すると、俺の手のひらから、光線が出た。残念ながら、慣れていない攻撃法のせいで命中率は悪くルゥガにあてることはできなかったが…。 でも、これなら…いける…!!ルゥガの欲望をかき集めてできたような真っ黒い闇の塊のモンスターとなったルゥガの攻撃力は、凄まじかった。何度も遠くへぶっ飛ばされ、ボロボロになった。 だが、ノアに貰った力を最大限に活かし、俺はノアと2人でルゥガを追い詰めていく。お互いもう限界のところまでボロボロになった時、ルゥガは俺に質問を投げかけてきた。 「魔法少女、お前はどうしてこんなになってまでこの地球を守ろうとするのだ。」 俺は、ルゥガのお門違いすぎる質問に、はぁ?と悪態突くような態度を見せた。 「俺はこの地球なんかどうでもいいんだよ。俺がなんでお前と戦ってるのか。それは、俺の大切なノアを傷つけたから、ただそれだけだ。地球がどうなろうがそんなのどうでもいい。俺はノアの傍に入れるなら地球人じゃなくてもいい。得体の知れない生物にでも何でもなってやるよ。ただ、その前に。ノアを傷つけた奴はぶっ殺してやる。だからお前は俺がここで殺す!ただそれだけだっ!」 剣をルゥガへと向けて大声で宣言すれば、ルゥガはいかにも悪役、というような笑い声を高らかにあげた。 「面白い。じゃあ、私がその夢もろとも全て!壊してやろう!!」 漆黒の光線を溜めるルゥガ。負けじと俺も剣の先に光線を溜める。これが最後だと、俺は悟った。お互い体力的にもう既に限界は来ている。この光線を放って、押し切った方の勝ちだ。 ノア…最後にお前の力、俺に貸してくれ。俺と1つになって、ルゥガを倒してくれ。 ――いいよ、大我。 ノアの声が聞こえた気がした。もうこの世にはいないはずのノアが、俺の左側に立って一緒に剣を支えてくれている気がする。ノア…お前って本当、俺のことばっかり考えてる馬鹿な奴だよ。 はぁっ!!という掛け声でルゥガが光線を放った。それと同時に俺とノアも光線を打つ。 「ラブリーマジカルハリケーン!!エターナル!!!」 金色とピンクゴールドが混ざった光が黒い光に衝突すると、押して引いてのせめぎ合いを繰り返す。  ――ノア、お前がいってしまう前にちゃんと俺の口から伝えれなかったな、ごめん。お前はいつも俺に伝えてくれていたのに。ノア、俺もお前のこと宇宙で一番愛してる―― *** きらきらとダイヤモンドダストのような光が街に降り注ぐ。終わった。戦いは全て終わったのだ。俺とノアの力に負けたルゥガは金色とピンクゴールドの光に突き刺され、今度こそ本当に魂を焼き尽くしこの世から消えた。 「ノア…。全部、全部終わったよ…。」 大きな木の幹にもたれ掛って座り、目を閉じているノアの頬を優しく撫でる。死んでもなおノアは美しく、まるで人形のようだった。 「大我…。」 ボロボロになったピプが、ふよふよと宙に浮かんで俺の元へと近寄ってくる。しゅんっとしおれた表情でノアを見るピプ。 「ノアは…大我と出会えて幸せだったピプ。前にノアが、大我がいないときに言ってたピプ。僕は、大我に出会って変わることができた。大我は僕の全てだ。もし、大我に何かがあった時はこの命に変えても大我を守り抜く。それが僕の一番幸せな終わり方なんだ、って…。だから、大我は苦しいかもしれないけど、でも、それを全うしたノアはきっと、最後まで幸せだったと思うピプ。」 ノアがそんなことを…知らなかった。 きっと、俺にそのことを伝えてしまえば、死ぬなんて匂わせをするなって怒ってしまうから、だから言わないでいたんだろう。ノアの冷たい体を抱きしめ、頬を擦り合わせる。 本当、馬鹿だなぁ、ノアは。俺の事ばっかり。泣きながら俺がそういえば、ピプもつられて涙を流した。ノアが愛してくれたこの体も心も、全て手放さなきゃいけないのは辛い。ノアは俺の事を忘れて、俺もノアのことを忘れてしまう。また、今みたいに絶対結ばれる運命なんて保証できない。でも、俺はお前のいないこの世界にはもう、何の用もないんだ。だから、もう行かなくちゃ―― 「大我…願い事…何にするピプ…。」 「…来世も、俺達一緒がいい。」 「…ホワイト企業はいいピプか?」 「いいよ、そんなくそみたいな願い。欲を言えば、俺はノアの傍に入れるなら犬でも猫でもバッタでもなんでもいいから、ノアは普通の人間にしてあげたいけど…。それだと願い事が2つになるよな…。なんでもいいんだ。ノアと2人でずっと一緒にいれるなら。きっと、ノアも俺と同じことを願っていると思うし。」 「そう、ピプか…。わかったピプ。…大我、魔法少女、お疲れ様ピプ。地球を、ぺぽぴっと星を助けてくれて、ありがとうピプ。」 「…あぁ。ピプは、星に戻るのか?」 「そうピプ。生き残ったみんなで、またぺぽぴっと星の再構築に奮闘しなきゃピプ。」 あぁ、そうか。もうピプともこれでお別れなのか。空気読めないし口が悪いし人使いが荒いし、本当、最悪なパートナーだった。けど、なんやかんや、ピプといるのは楽しかった。もう会えないとなるとちょっと寂しい気持ちになる。 「そうか、頑張れよ。ピプ、俺からも、ありがとうな。お前のおかげで、ノアに出会えた。」 にこっと笑いかけてやれば、いつものように偉そうに腕を組み、もっと感謝するピプ!なんていう。本当、最後までうっとうしい奴だ。細い棒の先に星のついたおもちゃみたいなステッキを取り出せば、ピプがごほんっと咳ばらいをした。 「それじゃ、大我の願い、叶えるピプよ。」 あぁ、と短くすると、ピプが何度かステッキをくるくると回して、ぶんっと空に半円を描いた。すると、辺り一面が白い光に包まれ、ピプの姿が消えた。白い世界の中で「大我、元気でピプ!」とピプの声が反響し、「ピプもな!」と返事を返した。腕の中に目線を落とすとノアがいる。顔にかかった金色の髪を耳にかけてやる。 「ノア、宇宙一愛してる。来世も絶対、俺の隣はお前だ。離れないって約束、したからな。」 唇を重ねると、さらに白い光は強さを増し、眩しくて目が開けられないほどの光へと変わる。来世はちゃんと、お前に届くように俺が先に愛してるって、伝えてやるから、覚悟しとけよ。

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