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第54話「最後のキス」
「のあ…?のあ…ノアッ!!!」
俺は急いでノアの体を抱き上げると、首元のリボンを解いてそれをドクドクと青い血が止めどなく流れるノアの首元にあてる。
俺は騙された。最初、横たわっている時に俺の名前を呼んだのは、ノアじゃなくてノアになりすましたルゥガだったのだ。俺はそれにまんまと騙されて隙を見せてしまった。
そして俺の隙を突いて、剣で俺の心臓を刺して殺そうとしていたルゥガの動きをノアが中で制御して、自分の首を自分で切ったのだ。応急処置のやり方なんてわからない。そもそも、応急処置ごときで助かるレベルの怪我じゃない。救急車呼ばなくちゃ、でも、俺が変身しているせいで時が止まっている。
時が止まってなくても異星人を病院に連れていくわけにもいかない。どうしたらいい、どうしたら、どうしたら…!!!パニックになってただひたすらノアの名前を呼ぶ俺を落ち着かせるため、ノアはゆっくりと優しく俺の頭を撫でた。
「大我、大丈夫。落ち着いて…。大我…僕は、大我と出会えて…本当に…幸せだったよ…。大我は、僕、に…たくさんの、ものを、くれたんだ。はぁはぁ…こんなにも、人を、好きになるのは、しあわ、せ、な…こと…なんだね…。」
「やだ、死ぬな、幸せだったとか、過去形で喋んなっ!!!これからも、俺達、一緒だって…やだ、やだよ、ノアッ!!」
「ははっ…言っただろう?絶対…大我を、死なせない、って…。大我には、少しでも、長く…笑っていて、ほしい、な…。幸せに、暮らして、ほし、い…。ごほごほっ…大我…はぁはぁ…好き、だいす、き…あい、して、る…。」
泣きながら微笑むノアの顔は、どんどん血色が悪くなり目も虚ろになっていく。
「あぁ…もっと、大我と、いろんな、こと…したかった、なぁ…はぁ…生まれ、変わって、も…大我の傍に…い、たい…な…。」
「ノア…俺はお前しかいないんだよ!やだ…嫌だっ!キスでもなんでもいくらでもするから!お前の好きなように何度でも抱かせてやるから!!だからッ!!…っだから、勝手に一人でいくなよぉ…。」
「…大我…キス、して…。お願い…。」
宝石のように綺麗な琥珀色の瞳がきらりと綺麗に輝く。
あぁ、懐かしい。ノアと初めて出会った時、俺はこの瞳に見つめられて、綺麗だって思ったんだ。甘くて低い声にお願いされたら、魔法にかかったみたいにノアの瞳から目が離せなくなって、言う事を聞いてしまう。
ノアの能力は俺に効いてないはずなのに、何故か、ノアの命令に自然と体が動いてしまう。きっとそれは、能力を使わずとも、俺が本当にノアに心を奪われてしまったからなんだろう。ノアの体を抱きしめると、ノアも弱々しい力で俺を抱きしめた。ゆっくりと唇を重ね合わせ、キスを交わす。
このまま時が止まって、2人だけの世界になればいいのに。俺たちの幸せを邪魔する奴らなんて全員消えてしまえばいい。俺はノア以外何もいらない。ノアさえいれば、それでいいんだ。だが、現実は残酷だ。少し長めのキスが終われば、ノアの残りの命のカウントダウンが始まる。俺が「好きだ、ノア。」と囁けば、ノアはそっと俺の頬に触れ、いつもの優しい笑顔で笑った。
「やっぱり…僕の、大我は…可愛い、ね…。僕の全て…大我に…あげ、る…よ…。……大好き、だよ…たい、が…。あい、し…て…。」
ゆっくりと閉じていく瞼。ノアはふっと意識を手放し、俺の頬に触れていた手をボトッと地面に落とした。
「ノア……?ノア…ノアっ!!ノア!」
ぐったりとしたノアの体を抱きしめたまま、俺はひたすらノアの名前を呼び続けた。どんどん冷たく、硬くなっていくノアの体。何度ノアの名前を呼んでも、何度好きだと叫んでも、ノアは一度も目を開けることはなかった。泣きすぎて腫れた目が痛い。それよりもっと、胸が痛んで苦しい。冷え切ったノアを温めるかのようにぎゅうっと抱きしめていると、天から声がした。
「敵である魔法少女を守るために自害するだなんて、まったく、魔王の名に恥じる行為だ。そんなことをしても、自害する寸前に器から魂を出しておいたから、私は生きているというのにな。まったく、間抜けな奴だ。」
ふははっと見下す笑い声が街中に響く。空を見上げれば真っ黒い闇の塊でできたモンスターがいた。10mほどの高さはありそうだ。
「さあ、邪魔者はもういない。魔法少女、そろそろグランドフィナーレと行こうか!」
俺とノア目掛けて、モンスターと化したルゥガがビームを放つ。俺は、ノアを担ぎ、左手にノアが持っていた剣を手に取り、ルゥガから少し離れた場所へと走って移動した。
ビルが立ち並ぶ場所は戦闘中の瓦礫崩れなどでノアが巻き込まれてしまうかもしれない。高い建物が少ない広い公園に辿り着くと、俺は公園の木陰にノアをゆっくりと下ろした。
「ノア。お前の願い、必ず俺が叶えるからな。」
ちゅっとノアの唇にキスを落とし、左手に持った剣を落とさないようにぐっと強く握る。利き手じゃないから動かしにくいけど、そんなこと言ってられねぇ。やるしかない!
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