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第53話「助けたい」
驚いて口を開けたままルゥガの様子を見ていると、突然、ルゥガは俺の名前を途切れながら呼んだ。
「たい…が…、大我…ッ!はぁっ…逃げて、大我…。お願い、だ…っぐぁあっ!」
「ノア…?ノア、ノアなのか!?」
俺はふらつく足をなんとか動かし、ノアに駆け寄る。だが、あと少しでノアの胸に飛び込めるというところでノアに止められた。
「駄目だ!こっちに来ないでくれ!また、父上に体を、乗っ取られて、しまう…!はぁはぁ…お願い、大我…君には、少しでも長く、笑って、生きていてほしいんだ…。だから、逃げて、大我…。」
苦しそうに顔を歪ませながら必死に想いを伝えるノアの頬には、一筋の涙がつぅっと流れた。ノア…。ノアはその中にいるんだな。助けてやりたい、でも、どうやって…?なんて俺は無力なんだ。ルゥガを倒すことも、ノアを救うこともできない。俺は、俺は…ッ!!
「ふざけんなよ…お前が…ノアがいないと、笑って、生きていけるわけねぇだろ…ッ!」
うぅっと嗚咽を漏らしながら泣けば、歪む視界の中、いつもの優しい笑顔で笑うノアの顔が見えた。その直後、またすぐにノアは悲鳴のような呻き声を上げてルゥガへと意識が戻った。
「まったく、出来損ないのくせに私に抗おうだなんて、無駄な。…さて、フィナーレと行こうか、魔法少女。」
俺は腕でぐいっと涙を拭い、ステッキを構える。
「あぁ、そうだな。ルゥガ、お前が死ぬフィナーレをなっ!」
俺は最後の力を振り絞ってルゥガ目掛けてラブリーマジカルハリケーンを放つ。間近でまともに喰らったルゥガは後ろへと吹っ飛んでいく。
隙を見せたらこっちが殺られる。それなら、殺られる前に、殺る!!ビルに叩きつけられたルゥガの元へと走り、起き上がる前に、腹に一蹴り入れてやる。ノアの体を傷つけるのはかなり心が痛いが、とにかくノアの体からルゥガを出すことが最優先だ。本当にこんな方法てルゥガがでていくのかはわからないが、とにかく攻撃を続けるしか手段が見当たらないのだから仕方がない。
地面に横たわり、呼吸をするのがやっとなのか、動かなくなったルゥガ。さぁ、止めと行こうか。ステッキを天高く掲げて下に振り下ろそうとした瞬間だった。地面に転がったまま俺のことを見上げ、ルゥガ…いや、ノアがふわりと笑ったのだ。
「大我。」
俺は掲げていたステッキをボロッと手から落とし、ふっと力が抜けてその場に膝から崩れ落ちた。震える手で倒れているノアの頬に触れる。
「…ノア…なの、か…?」
目を細めてにっこりと笑いながらノアはこくりと首を縦に振った。戻った、ノアが戻ってきた…!俺は必死に左手だけでなんとかノアの背中を支えて抱きかかえる。
「ノアっ!!よかった、よかった元に戻って…!俺、お前がいないと…。」
ゆっくりと体を動かして、俺と向き合う形になると左手の指を絡ませてぎゅっと手を繋ぐ。
「助けてくれてありがとう、大我。僕も大我がいないと生きていけないよ。これからも、2人で一緒にいよう。」
こつんっと額を合わせる。幸せだ。ルゥガは消えた。これで俺が死んだ後でも、ノアがノアらしく生きていける。いつもノアから貰ってばっかの俺だから、少しはノアの為になることできたはずだよな。
いつもはしないけど、今日は特別。ノア…と甘える声で名前を呼び、そっとノアの唇に自分の唇を近づけてみる。あと少しで唇が重なる。その寸前で、ノアはにやりと笑った。
「なーんてな。」
ガッと首を鷲掴みにされ顔を引きはがされれば、ルゥガの右手に剣が見えた。
俺の心臓を貫くため、後ろへ引かれた剣。やばい騙された、と気づいた時には既に遅かった。
目の前に青い液体がぶしゃあっと噴水のように飛び散る。一瞬、何が起こっているのかわからなかったが、俺の首を掴む手がするりと離れ、どさっと鈍い音を立てて地面に倒れたルゥガを見て俺はようやくこの状況を把握した。
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