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第52話「大魔王降臨」

「もしかして…お前、ノアの父親、ルゥガか…?」 ごくりと唾を飲み込む。飲み込み終えるより先に、気づけばノアは俺の目の前に瞬間移動していた。にたりと笑って、正解、と言えば、手加減抜きで俺の腹に蹴りを入れた。俺は後ろに吹っ飛び、ビルにめりこむ。ノアが本気を出せばこんなに強いのか。今までどれだけノアが俺に対して力を抜いていたのかがよくわかる。ビルに叩きつけられた俺は、その場に倒れこみ、痛む腹を抑えながら荒い呼吸を繰り返す。 「魔法少女はどんな強敵なのかと思えば、この程度なのか。君が何体目の魔法少女かは知らないが、この程度殺せないでいるだなんて。まったくノアは出来損ないだ。」 地面で蹲っている俺の前に立ち、フッと鼻で笑いながらルゥガは言った。こいつは昔から、今みたいに何度もノアのことを罵り傷つけてきたんだ。そう思うと、はらわたが煮えくり返る思いがした。許せれない。ノアを傷つける奴は全員、絶対俺が許さない。ルゥガの足を掴み、俺は痛む腹からなんとか声を絞り出す。 「ノアは、出来損ないなんかじゃ、ねぇ…。ノアは、お前と違って…優しくて、優し、過ぎて…自分より、俺の、ことを優先するような…馬鹿な、やつ、なんだよっ…!っぐあっ!」 足を掴んでいる手を上からぎりぎりと踏みつけられる。多分、腕が折れた気がする。みるみるうちに手は青く腫れあがり少し動かすのにも異常なほどの痛みが腕全体に走る。 「汚い手で触るのはやめてくれないか。低能がうつるだろう。安心しろ。君が死んでこの地球が我が物となれば、地球はさらに素晴らしい星へと変わる。私の出来損ないの息子の相手をしてくれて感謝しているよ、魔法少女。それじゃあ、安らかに眠れ。」 俺に人差し指を向けて、再び光線を打とうとするルゥガ。駄目だ、もう逃げられない…。人差し指の先端に溜まっていく光線を見るのが怖くて、ぎゅっと目を瞑った。 「大我、諦めるなピプ!」 はっと目を開ければ、ルゥガの顔に張り付いて必死に抵抗しているピプがいた。 「ぴ、ピプ!!」 「大我、こんなところで死んでいいピプか!?寿命はあと半年でも、ルゥガを倒せば、少しでも長くノアと一緒にいられるピプ!ここで諦めるなピプ!」 そうだ、ルゥガを倒せばノアはルゥガからの支配から解放される。俺の命はタイムリミットがある。でも、俺が死んだ後もノアは生き続けるんだ。俺が生きている間にノアにしてあげられることは全部やってあげたい。俺がいなくなった後、ノアが少しでもノアらしく生きられるように、俺はここで、ルゥガを倒さなくちゃいけない…! 「誰かと思えば、ぺぽぴっと星人…!まだ生き残りがいたのか。」 べりっと顔からピプを引きはがし、地面に叩きつける。うぎゃっと声を上げてピプが地面にべちゃっと落ちた。 「ルゥガ…お前だけは、絶対に、絶対に許さないピプ!」 「別に許さなくてもいいさ。お前もここで死ぬのだからな。」 「死ぬのはお前だ、ルゥガ!」 折れた右手とは反対の左手でステッキを強く握り、ルゥガ目掛けて勢いよく振り下ろす。 ラブリーマジカルハリケーン!!と叫べば、キラキラと光る光線がルゥガを突き刺す。だが、少しのダメージしか与えることができなかった。どんだけ強いんだよ、こいつ。 もう一度呪文を唱えるが、あっけなく攻撃は交わされる。その後も何度も何度もルゥガ目掛けて光線を打つが、ほとんど交わされ、まぐれであたったとしても大した衝撃を与えることはできず、ただただ俺の体力だけが消耗していく。駄目だ、これ以上ラブリーマジカルハリケーンを使えばもう俺の体が持たない…。はぁはぁ、と肩で息をしながらふらふら状態の俺にゆっくりと歩きながらルゥガが近づいてくる。 「もう限界か?魔法少女。それじゃあ、お遊びはそろそろ終わりとしようか。」 剣を召喚すると、立っているのがやっとな状態の俺目掛けて、勢いよくルゥガは剣を振り下ろした。少し離れた場所で、横たわっているピプの大我!!と呼ぶ声が聞こえた。 「っ!?うっ、ぐぁあ…うぁああっ…!!!」 ガシャンッと大きな音を立てて剣を手から滑り落とすと、両手で頭を抱えて苦しそうにルゥガが悶える。一体、何が起こっているんだ…?

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