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第51話「お前、誰だ…?」
ノアが調べものをすると言ってエビルディ星に帰ってから4日が経った。
向こうとこっちじゃ時間の流れが違うから、きっと向こうじゃ数時間しか経っていないのだろうけど…。4日もノアに会えないだなんて寂しすぎて死にそうだ。いつ帰ってくるかも、本当に帰ってくるかもわからない状況での4日間は余計に不安に押しつぶされそうになる。
俺の余命があと半年と突然のカミングアウトをされた瞬間から、ノアと一緒に入れる時間のカウントダウンが俺の中でスタートした。1秒でも長くノアと一緒にいたいと思っているのに既に4日も無駄にしてしまっているのが辛すぎる。エビルディ星に帰る寸前、ノアは苦しそうな声で言った。
――なんで僕は人間じゃないんだろう…。僕も同じ人間なら…。
俺だって、なんでノアと同じエビルディ星人じゃないんだって思ってしまう。そんなこと考えたって、現状は何も変わらないのに。現実逃避ばかりしてしまう。重たい足取りで寒空の下を歩き、家へと帰る。きっと今日もノアは戻ってきていない。
鍵を開けてがちゃっとドアを開けると、リビングに電気が灯っていた。俺ははっとして、慌てて靴を脱ぎ散らかしてリビングへと駆け込む。
「ノアッ!」
勢いよくリビングの扉を開ければ、ソファーに座っているノアがゆっくりとこちらを振り返った。
「ノアっ!お前、戻ってきたなら連絡しろよ!もう4日も帰ってこなかったからすごい心配したし不安だったんだぞ!」
鞄を床に投げ捨て、コートを着たままぎゅうっとノアに抱き着けば、ノアはくすりと小さく笑った。
「ごめん、驚かしたくてね。」
「ばかノア、絶対許さねぇからな。」
ノアの首筋に顔を埋めて息を吸う。ノアの匂い。落ち着く。
「ノア、今日のご飯なに?」
「え、ご飯?」
「えっ?…あ、もしかして、今帰ってきたばっかりか?じゃあ今日はデリバリーでも頼むか?それか外食するとか。てゆーか、いつまで魔王の格好のままでいるんだよ。早く服着替えろよな。」
へらっと笑いながらノアの顔を見つめる。俺は背筋がぞくっと凍った。ノアの琥珀色の瞳の奥が真っ黒く淀んで見えたのだ。思わずぱっと体をノアから離せば、どうかしたかい?と聞かれて、なんでもないと誤魔化した。
きっと俺の気のせいだ。最近ノアはずっとぼんやりして体調が悪そうだったし、もしかしたら今日も体調が悪いのかもしれない。早めに休ませてあげた方がよさそうだ。ノアの隣に座り直し、スマホでデリバリーアプリを開く。画面をスワイプしながら、ノア何食べたいー?なんて呑気に聞いていると、突然ノアに顎を掴まれてぐいっとノアの方へと無理矢理向けさせられた。
「ちょっ!?の、ノア!?そ、そういうのは、ご飯食べた後でっ!い、いや、俺もそりゃ、その、や、やりたい、けど…ごにょごにょ…」
「目を見て。」
ノアの言葉に俺はびくっと体を震わせ、指示通りノアの目を見つめる。少し、怖かった。言葉に棘があるように感じたから。いつもの声と同じはずなのに、何故かあの低くて甘ったるい声じゃない気がして、変な不安感が俺の中を漂う。
怖くなって、小さな声でノアの名前を呼べば、ノアはぱっと俺の顎から手を離して、「効かないのか…。」とぶつぶつ独り言を言っている。もしかして、能力を俺に使おうとした…?いや、そんなわけないか。だって、ノアは俺に能力が効かないことわかってるし、そもそも既にお互い両想いなのに使う必要性なんてない。
俺の寿命があと半年だって知って、ノアもいろいろと動揺しているのかもしれない。不審に思いながらも俺はできるだけいつも通りに接することにした。こういう時は俺が正常でいて、大丈夫だってノアを安心させてやるべきだ。
「ノア、そういえば今日、あれ…まだだろ。」
「あれ?なんのことだい?」
「お前っ!またそうやってしらばっくれて俺から言わそうっていう魂胆だろ!まじで悪趣味!ド変態!」
ぎゃーぎゃーと喚く俺を、眉をひそめてまるで変な物を見るかのような目でみるノア。え、そんな顔しなくても…。俺の中の不審感は強まっていく。
こいつ、本当にノアか…?いつものノアなら文句を垂れながら喚く俺を愛おしそうに笑って見つめて、ぎゅーっと抱きしめて上手くおねだりしてくる。それなのに…。でも、俺の目の前にいるのは確実にノアだ。違うはずない。
疑う気持ちを無理矢理振り払い、ノアの左手をぎゅっと握り、上目遣いでノアを見つめる。
「…おかえりの、ちゅー…まだ、してないんだけど。」
あー、ご飯はお預けだな。多分、このままベッドに行くパターンだ。まぁいい、明日は休みだ。終わってから2人でコンビニに行くのもありだな。この後の流れを頭の中で考えながら、そっと瞼を閉じて、ノアからのキスを待つ。だが、ノアがキスをすることはなかった。
それどころか、重ねた俺の手を振り払ってソファから腰を上げた。えっ…ノア、嘘だろ?ノアが俺を拒むなんて、そんな…。血の気が下がっていく。頭がくらくらして涙で滲む視界に遠ざかっていくノアの背中が見える。嫌だ、ノア。俺を嫌いにならないで。行かないで。
「嘘だ…ノアは俺を拒んだりなんかしない…!誰だよ、お前…お前はノアじゃない!」
泣きながら叫べば、カッと見開いた目でにたぁ、と笑いながらノアが俺の方を振り返った。血走った目はメラメラと闇深い欲望で燃えていて、思わず恐怖で後ずさった。こんなノア見たことない。俺を好きじゃないノアなんて嫌だから、思わずノアじゃないって叫んでしまっただけだったけど、もしかして本当に…。
「お前…本当にノアじゃない、のか…?だ、誰なんだよ…!!」
「ばれちゃったかぁ…。誰だと思う?」
人差し指で俺を指させば、指の先端から凄まじい勢いで光線を放たれた。間一髪のところで俺はそれを避けて、急いで鞄の中からステッキを取り出す。
「ラブリーキューティーメタモルフォーゼ!!」
ピンクゴールドの光に包まれ魔法少女へと変身していく。サァッと光がひくと、俺達は外に移動していた。ステッキを構えて戦闘態勢に入る。誰だか知らないが、おそらくノアは体を乗っ取られたんだと気づいた。
昔見ていた戦隊ヒーローではよくある展開だ。…となると、その展開に基づくのであれば…。
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