12 / 25
※ 執務室・ウィズ・ヴェラスコ その2
いい加減、こちらも限界だった。とても両手が回りきらない、固い筋肉に覆われた横腹を掴み直すと、ヴェラスコはぐいと強くハリーの体を押し下げた。
「ふ、ぐ、あぁ゛」
「ああ、最高だな」
頑なに見せかけ、いざ取り込めば揉みしだくような動きで、体温の高い内臓へ迎え入れてくれるアナルの動き。括れまで押し込むだけで、複雑な粘膜の反応を十分堪能できる。
最後まで行けば、きっと明日のスケジュールも脳内から全て吹き飛ぶくらいの快楽が待ちかまえている。口角からつっと垂れそうになった涎を辛うじて飲み込みながら、ヴェラスコは視界を覆う、緊張しきった背中を見上げていた。
「市長、もっと気持ちよくなりたいですよね……これ、欲しいですか」
「ぅ……あ、欲し、っ、ほしい……!」
「じゃあ」
俯いて首を振る駄々っ子の仕草に、項へ唇を押し当てる。
「あなたが動いて。どうするのが好きか、教えてください」
市民を導くのがあなたの仕事でしょう。そう意地悪く囁けば、ハリーは「くそ、っ」と短く吐き捨てた。そんな切羽詰まった悪態は、男の本能を煽り立てるだけだと、同性なのに気付かないのだろうか。
我慢せず奥まで貫き通すのかと思った。だがまずハリーは震える脚を叱咤し、幹の三分の一ほどの場所で動きを止める。なだらかに膨れた凝りの上を亀頭が滑った途端、がちっと奥歯が固く食い縛られた音がこちらにまで届いた。
「っ、ここ」
片腕をヴェラスコの頭に回し、見えない内臓を覗かせるように、シャツの隙間からみっしり割れた腹筋を見せつける。
「ここが、いいんだ。いっぱい、突いてくれ」
「、わかりました」
腹に腕を回して、ヴェラスコは己の腰を浮かせた。
「は、んっ、ぁ、ああ!」
一度達した余韻が醒めていないのだろう。最初の鋭い一撃でもう、ハリーははしたない悲鳴を上げた。
ず、ずっ、と比較的浅い場所で抜き差しを繰り返せば、ハリーも腰を揺すって合わせてくる。前立腺はすりっと表面を撫でられ、強く押し込まれ、変形するほど弾かれ、休むことなくいたぶられ続けていた。
「あっ、あっ、ふ、ぐっ、や、ぁあ、ん、ヴェ、ラ、きもち」
これは失敗したな、とヴェラスコが思ったのは、くっきり浮き出た裏筋を締め上げる動きが半ばで止まり、せり上がり始めた陰嚢にもどかしさを覚えてからの事。大口を叩いた手前、ハリーが音を上げるまで、そこばかりいじめ倒してやりたい。けれど、自分も気持ちよく解放したい。結局、己はこの男に仕える身だ。
腹の底から沸き上がってくるのは、射精への欲求ではない、怒りが最も近似の感覚だろうか。考えろ、両親は何のために上質な遺伝子を受け渡してくれたんだ。きり、と皓歯しながら、やもすれば暴走しそうな理性の手綱を引き絞る。
周囲へくまなく視線を走らせて状況を把握し、脳をフル回転させて作戦を組み立てる。既にがくがくと笑い、垂れ落ちるローションや腸液、先走りで濡れたハリーの膝は、幾らもしないうちに崩れるだろう。それまで待てるか? いや、とても無理だ。焦れば焦るほど、突き上げる動きも荒々しくなり、ハリーは体を魚のように痙攣させた。
ふと、熱を持つ頬通しを重ね合わせるようにして見下ろした体の正面で、ハリーがワイシャツの裾をぐっと引っ張っている事に気付いた。正確には、緩く緩く屹立したペニスを、布ごと握りしめている。
射精を我慢しているのだろうか? 違う、上半身がしなる度に、甘い嬌声は一際大きくなり、蹂躙者の耳を苛む。
しばらく考えてから、ヴェラスコは相手の腹に回していた腕の力を緩めた。それまで鳩尾を支点にして前のめりになりかけていた体が益々倒れる前に、すっと手のひらを上へと滑らせる。
ワイシャツ越しにも分かるほど、ぷくりと膨れた乳首を親指で擦り、それから肌より柔らかい周辺の粘膜ごと軽く摘んでやる。
「ふ、あっ…!?」
すかさず反対の手は股間を覆っていた手に重ね、指を絡ませる。ラテックス越しにも火傷しそうなほど熱い性器をごしごしと扱いてやれば、効果は覿面。脚どころか、下半身全ての筋肉が弛緩する。
ずぶぶ、と為す術なく男のペニスを飲み込んだハリーは、笛のように甲高く息を吸い込んだ。吐き出すより早く、お互いの肌がぶつかり合い、最も深い結合が果たされる。ただただ戦慄くしかない端正な唇に興奮し、ヴェラスコは唾液の滲む口角に接吻した。前屈みになって胎の中の芯が腹側へぐっと文字通り肉薄し、胸元を撫で回す手つきに力が込められたせいだろう。そのまま這わせた指が迫るのへ怯えたかの如く、喉が大きく喘ぐ。
「あなたは奥も好きだったでしょう」
「い゛…?!ぇ、ら」
ぎゅっと根本を抑えつけられ引き攣る呻きへ、うっとりと聞き惚れ「この淫乱」と火照った耳朶に囁く。
議事堂で繰り広げる舌戦が激しくなればなるほど、闘志を燃やすのと同じだ。ハリーは強い言葉を交えた睦言を耳にすれば、顕著な反応を見せる。
「心配しなくても、たっぷり可愛がってあげますよ」
射精をさせないでいかせるつもりだと悟ったのだろう。最初ハリーは、ぐりぐり、こんこんと変則的な調子で袋小路を叩かれると、足を床に滑らせ、精液をせき止める手の甲を深爪した指で引っ掻きながら、抵抗のそぶりを見せた。
だがどれだけ意志では逆らおうとしても、肉体は嘘を付けない。痛いと怒る癖に、通らないと泣き言を漏らす癖に、頑なな最奥をいじめられれば、そのはらわたは獲物が来たと言わんばかりに反撃を開始する。きゅうきゅうと肉ごと吸い上げて溶かすような動きは極上だった。
そしてハリーが、効率的に快楽を得る為にはどうすればいいか思い出すまでもまた、大して時間はかからない。どすんと落とされる度、腿に青あざが出来そうなほど豊満な尻の肉を振り立て、閉ざされた場所を少しでも撓ませようと努力する。
ペニスの先端により、ぐにゅうっと腸壁が引き伸ばされて薄くなる勢いで、思い切りよく突き当たりを押す。丸く柔らかい無数の突起が舐め上げるような感覚は、徐々に忙しさを増してくる。下腹が痙攣するような興奮に、ヴェラスコも己の快楽をひたすら追求した。
埒を明ける時、ハリーは体の内も外も震わせた。胎内を濡らされる事はなかったのに、射精されている間「あつい」と譫言を漏らす。追い討ちをかけるよう、ヴェラスコも己の腰と相手の尻を密着させた。深い場所を執拗に揺さぶれば、革製の腕置きに爪痕が刻まれる。
相手が満足した後に解放されたペニスから、じんわりと勢いのない放出が続いている間、ずっと絶頂を味合わされたのだろう。ヴェラスコの肩に預けられたハリーの項は、まるで石のように固く緊張していた。
あくまでもペニスと言う切り札を握り、余裕ぶっていたつもりだった。なのにいつの間にか己の思考もすっかり停止し、全身が感覚器官のみになっているのを、ヴェラスコは感じていた。ぐったりと椅子に身体を預け、今まで抱いていた男の重みと熱、肌の汗ばみや荒い息を受容する。
やがてハリーはふらつきながらも腰を上げ、ヴェラスコに向き直った。再び足下へ膝を突くから、柔らかく湿った髪に頬を擽られる。
そこから連なる口付けもまた、奉仕の一環だった。汗の浮いた首筋、鎖骨、寛げたシャツの胸元から、まだ緊張の残る腹へ、ちゅ、ちゅ、とわざと音を立てて──途中で、ランプの明かりを受け鈍い輝きを放つロザリオは間違いなく目に入っただろうが、無視される。不意に込み上げた、薄暗い感情へ身を任せ、ヴェラスコは男の後頭部へ言った。
「この前、実家へ帰ったら、父と母が『早く孫の顔が見れたら言う事なしなんだけど』と言うんです」
ぴく、と眼前で肩が揺れたのを見逃すほど、体を重ねた相手に浸ってはいない。そして放った言葉を後悔するほど優しくもなれない。これは両親が期待していたものでは無いと、ヴェラスコは自覚していた。
「弁護士として、ありとあらゆる少数派へ寄り添っていたのに……ボロはどこかで出るものですね。結局、息子は彼らと違う、優性人類だと思い込みたいんです。全く、良い息子のふりをするのも馬鹿らしくなってきましたよ」
いつの間にかハリーの顔は、己の股間に埋まっていた。避妊具を外し、ラテックスと汗と精液の味がするペニスを口へ招き入れようとする──前に、じっと上目を突き刺す。
「正直に話せば良いんだ、上司に子種を搾り取られて、受精させる分は一滴も残ってないって」
「部下の責任を取る?」
「市民の。それが市長の仕事だからな」
まるで何でも無い風に嘯き、ぱくりと咥えた柔らかい粘膜に、ヴェラスコは意識を集中した。そうしなければ、とんでもない事を口走りそうで、怖くて仕方がなかった。
ともだちにシェアしよう!