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※ 執務室・ウィズ・ヴェラスコ その1

 「生徒の増員ネタも駄目、人種の話題もアウト。一体全体どうして、こんなタイミングで聴聞会なんか」  思うに本来、皮革、特に本革は、家具に適した素材と言い難いのではないだろうか。汗を含む汚れを吸着し、手入れを怠ればすぐ傷む。加えてこの椅子特有の個性として、詰め物がへたり、スプリングが緩んでいる為、背後へ下手な角度で体重を預けると物凄い勢いで反り返ってから、同じ速度で戻るのが全く難儀だった。  普段ハリーはこんなところに鎮座ましまし、よく腰痛を起こさないものだ。いや、あちこちを飛び回っているから、腰を落ち着ける事など滅多にないのかもしれない。  ぎしぎしと背もたれを軋ませ、ヴェラスコは携えていたA4のコピー用紙に、赤ペンで盛大な斜線を入れた。これが読まれるはずだったチャーター・スクールの創立30周年記念祝賀会は、20時間後に開催される。 「申し訳ありませんが、市長、全面的に書き直します。恨むなら教育局のインドリサーノを恨んで下さいね。今更認可についてゴネるなんて……彼は以前からあそこを潰したいんです、黒人が多い学校のバス停が、自分の実家近くにあるのが、どうしても気に食わないから」  ヴェラスコの両脚の間、執務机の下へ潜り込むような位置で膝を突くハリーは、頬張っていた性器をちゅるりと舌で口腔から押し出した。それでも頬をぺちりと叩いて悪さをする亀頭を人差し指で突き退け、窘めるように息を吹きかける。 「知ってるか、ヴェラ。昔イタリア人は『肌の白い黒人』と呼ばれていたんだ」 「じゃあブラック同士仲良くすればいいのに」 「全く……既得権益について、スパイク・リーの映画でも観て勉強しろ」 「ネットフリックスに入ってた、チャドウィック・ボーズマンの出演してた作品は観ましたね」  処置なし、と肩を竦めるハリーはまだまだ余裕に見えた。本当は、とてもそんな状況じゃない癖に。原稿の上から覗き込むようにして下目を投げつけ、ヴェラスコは鼻を鳴らした。  口で奉仕している間──一介の広報担当官に、市長が奉仕してするなんて!──ハリーは自分で後ろを解していた。既にスラックスはコート掛けへ丁寧に筋を立てた状態で片付けられ、下着も足下で蟠っている。上と下、物を差し入れられた二カ所の孔から、くちゅ、くぽ、と甘く、粘っこい響きは止まることを知らない。狭いデスク下で音が籠もるのだろう。どんな些細な身じろぎにも耳を犯され、ハリーの眼差しは時を追うごとにぼんやりと焦点を失っていった。  デスクの時計へ視線を投げれば、時刻は午後10時を回ったところ。夜はこれからだった。今日は堪え性が無かったな、というヴェラスコの感想には、2つの意味が込められている。まだ並び建つ第二市庁舎の窓も、半分ほど明かりがついているような時間から、ハリーが誘いを掛けたこと。たった20分ほどしゃぶっただけで、この男がすっかり興奮していること。 「あなたの口の中はまるで天国みたいに気持ちいいですよ、市長」  ネクタイを引き抜いたのに、シャツの内側へは汗が籠もりつつある。肌に張り付く感触が不快だった。アンダーシャツも、胸から下げたロザリオも──夢を抱いてこの国に移住し、掃除婦として子供達を育て上げた祖母から受け継がれた、幸運のお守り。  まとわりつく鎖を指で絡めて除けながら、ヴェラスコは頬が膨らむほど熱心に男のものへ舌を這わせるこの街の市長へ唇をつり上げた。 「ほら、おかげで、こんなにも、っ」  上目遣いのまま、鈴口のみ唇を触れさせるようにして、ずずっと先走りを啜られる。咄嗟に利き手で、大ぶりなうねりのある濃い金髪を掴む。握っていたボールペンの固い感触へ、ハリーは微かに不服そうな表情を浮かべる。まだまだ潰えない反抗心ごと挫くよう、ヴェラスコはサントーニのホールカットシューズに張られた柔らかい靴底で、汗ばんだ下腹を軽く踏んでやった。 「本当はもう、あなただって準備は済んでいるんですよね」  そう、先ほどからハリーが自らのアナルに潜り込ませている指は、拡張ではなく自涜を目的としていた。人差し指を第一関節まで浅く差し入れ、探るようにこちょこちょと、細かく動かす。時々襞を引っ掻き、捲れる粘膜を空気に触れさせては、目を閉じてぞくぞくと肩を震わせていた。  準備は万端。けれどこの部屋で全ての決定権を委ねられるのは、デスクの向こうに腰掛けている人間だ。軽く椅子を引くことで、ヴェラスコは許可を与えた。よろよろと立ち上がった市長に「こちらへ背を向けて、机へ手を突いてもいいですよ」と、にっこり微笑んでみせる。  従順に眼前へ突き出された下半身はたっぷりとした肉付きだが、尻たぶの狭間まで濡れるほどローションがまぶされていた。視線で感じるのか、びくり、びくりと断続的に腰が跳ねる。デスクの縁を握りしめる手の傍らに、投げ出された原稿が滑って来たとなれば、震えは脊柱を伝って肩にまで及んだ。    何もないとは最初から思っていなかったが、左手で尻たぶを引っ張った時に現れた丸い金属製のリングは視覚に衝撃を与える。 「いつから挿れてたんです」  こつ、と指先でつついてやれば、輪から続く鎖を飲み込んだアナルが、怯えたようにひくりと窄まり、銀色を溢れた粘液でぬらぬらとぬめらせる。ぽってりと充血し腫れ上がったその縁と同じ位、耳を赤く染め、ハリーは俯いた。 「定時、の後に……」 「5時間も? 市長は忍耐強いですね」 「馬鹿、いい加減に……!っああ……!!」  輪に引っかけた指で軽く引いたが、そもそも人間の内臓は筋肉だ。鎖が現れる時も、蠕動で引き戻されるときも、皺へ食い込むように擦れるのだろう。いかっていたハリーの肩が、がくりと落ちる。  躊躇いは不快感を長引かせるだけ。ヴェラスコは手首に力を込め、一息に引き抜いた。 「〜〜〜っ……!!!」  反り返る背中に汗染みの浮かんだシャツが張り付き、グラマラスな体の輪郭が露わになる。急所に触れられた猫の仕草で突き上げられた尻が、これ以上逃げないよう腰を掴めば、指先に腹筋の激しい痙攣を感じ取ることが出来た。  おもちゃらしい蛍光ピンクをした、ピンポン球程の大きさの玉は、一体幾つ連なっているのだろう。一つ球体がくぐる度、括約筋が皺もなくなるほど広がっては一度直径の位置でちゅうと吸い付き、後半へ向かうにつれ慌てて収縮する。ぶちゅ、と卑猥な音を可視化したかの如く、細かな気泡がプラスチックを覆うぬめりの中に浮いている様子へ、ヴェラスコは喉を鳴らした。  腹の中で球が渋滞して擦れ合う、ごりごりと固い感触を手のひらで感じなくなり、最後の一個が押し出される。蜜が糸を引きながら垂れ、内腿にぶらりとぶつかる生ぬるい感触が気持ちいいはずはない。なのに机へ肘を付き、身を震わせるハリーは抗議の一つも寄越すことが出来ないようだった。いつの間にか射精していたらしい。取り付けられた避妊具の精液溜まりに、たぷんと満ちる白濁を、デスクランプが放つ温かな色の光が無慈悲に照らしつけていた。  早々に温度を失いつつある玩具を鼻先へぶらさげ、ヴェラスコは「人体の神秘だ」と感嘆も露わに呟いた。 「こんな物を腹の中に」  乱れ髪もそのままに、ハリーはゆるゆると、肩越しに部下を振り返った。 「君だって、慣れれば、すぐ入るさ」 「それはご勘弁を。僕はもっぱら、こっちに興味がある」  まだ歪に開いたままのアナルへ濡れた指を這わせれば、容易く食まれる。全く貪欲なものだ。先ほど己で遊んでいた時も同じような動きだったろうに、他人へ擽られるのはまた別の感覚を呼び起こすらしい。くるりと直径を広げるように回してやれば、額が重厚なオーク材の天板に押しつけられる鈍い響きと、乱れる荒い息の音が部屋の空気を熱くする。 「ところで、そろそろ楽しませて貰って良いでしょう」  今度腰に手を回して引き寄せるときは両手を使う。お互いの皮膚の汗ばみで滑らないように。    何とか平静なふりを続けることが出来ていると、ヴェラスコは思っていた。だがちらと視線を投げかけたハリーが、火照った頬に浮かべる笑みは、間違いなく宥めの色が一刷毛されている。 「ああ、分かってるよ」  避妊具を取り替えた後、偉そうにそっくり返る部下に背を向けたまま、ゆっくり腰を落とす。位置を調整してやり、ヴェラスコは太腿、そして胸にじわじわと迫り来る重みを堪能し、ほうと息を吐き出した。 「そう、そのまま……ただここに座れば良いだけです」  触れてはびくんと逸れる腰のおかげで、亀頭はアナルへ触れては、沈み込む前に離される。男を焦らす技巧かと思ったが、ハリーは反射的に逃げる度、関節が白くなるほど、腕置きを掴む手に力を込める。

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