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罰の時間
プレアデスは有言実行の男だった。賢者全員に意見書を送り、自らの足でもランスに直談判しにいった。その甲斐あって会議の場を設けることになり、プレアデスはその会議後に明るい表情で帰宅した。
「良い方向に改善できそうです」
「……そうか」
レインは正直驚いていた。あの色欲の化身どもがこうもすんなり受け入れるとは。そういえば元々はレインに言うことを聞かせるためだったわけだし、レインが大人しく使われるようになれば手段は問わないのかもしれない。
「残念ながら今回の滞在期間は伸ばせませんでしたが……一度ランス殿の元に帰ったあと、改めて予定を組み直すことになるとか」
「よく不満が出なかったな」
「ええ、実はクリス殿はレイン様を受け持つ自信がないとかで受け入れを辞退していたんです。ホランの留学が終わったあとは二巡目となる予定で」
「そうだったのか」
「ちょうど次の計画を立てるところでしたから、いいタイミングだったのかもしれませんね」
それは素直になって良かった。今後賢者からの扱いが優しくなれば隙も生じやすくなることだろう。プレアデスには悪いがレインはまだ逃亡を諦めてはいない。
運が向いてきたかもしれないとレインは少し期待した。
「おかえりなさい」
ランスが変わらぬ微笑みで迎えた。
「プレアデスにずいぶん可愛がられたようですね。一体どんな手管を?」
「……あいつはお前らよりよっぽどまともだってことだよ」
「ふふ、酷い言い草だ。悲しいですね」
ランスは少しも傷ついていない様子でそう言い、おもむろに壁の地図を示した。賢者たちが担う国々が描かれている。
「こちらがオルドラントです」
「……?」
「ここがカイラ、そしてエルレド。ホランはここ」
「地理くらい知ってる」
「……ホランの西側には魔族の支配する土地があります。国境の警備を賄えるだけの力はホランにはありませんので、現在はカイラの傭兵とオルドラントの勇士たちが魔族からホランを守ってくれています」
ランスの微笑みが酷く冷たいものに見えた。
「私たちはプレアデスの意見を尊重したいと思っています。彼のような清廉な人材は中々いるものではありませんから、我々もなるべく彼を守りたいのです」
「……なにが言いたい」
「ふふ。私はずっと、貴方に大切なものができないかと願っていたんですよ」
レインは殺意を隠さずランスを睨みつけた。レインが人間を憎み嫌う所以だ。愚かで浅ましく、同族さえ欲望を叶える道具として扱う。
「時折プレアデスの元へ遊びにいくのは許しますよ。心の休息は大切でしょうからね」
「……」
「今後はオルドラントで学んでいただくことになります。他国の賢者がオルドラントを訪れた際には『接待』を行っていただきましょう」
これでは今までとやることが変わらない。都合よく呼ばれて犯される玩具であれと言われているも同然だ。そしてそれを拒むなら、ホランを切り捨てることは造作もないと仄めかされた。
レインはホランとプレアデスを人質に取られたのだ。情が湧いてしまったばかりに、あの朗らかな人々の命が駒にされてしまった。
「……殺してやる、必ず」
レインの言葉にランスはむしろ笑みを深めた。
「ああ……やはりそうでなくては。しおらしい貴方も魅力的ですが、その強い瞳を曇らせる瞬間が私は好きなんです」
「外道が……ッ」
レインが拳を握ると、ランスは悠然と立ち上がってレインを見下ろした。長細い指先がレインに向けられる。
「賢者ランスが命じる。『絶頂しろ』」
「は……、ッ!?」
急激な快楽がレインの体を駆け抜けた。無理やり流し込まれた衝撃に耐えられずがくりと座り込む。
「っ……ッ……♡」
事態を飲み込みきれず呆然と震えるレインをランスが愉快げに見つめた。
「貴方はすでに優しく扱われていたのですよ。我々はその気になればどんなことでも貴方に強制させることができた。例えば死にたくなるような恥辱もね」
「っ……」
「しかしあのように無様に堕ちた後でしたから、少しは慎んであげたのです。それに驕り、賢者の良心を利用して罰から逃れようとするとは……まだまだ厳しい躾が必要なようですね」
「ふざける、な」
「……『絶頂しろ』」
「くひぃッ♡」
再びの衝撃。一気に頂まで叩き上げられた快感に頭が追いつかない。明滅する意識の中痙攣して崩れ落ちるレインの眼前にランスの靴が見えた。
「ご自分の立場を理解なさいましたか?」
「ぁ……ぅ……♡」
「『絶頂しろ』」
「ああぁぁぁッ♡」
もはやなすすべもない。尻だけ突き出した無様な格好でレインは床に蹲った。
「返事はきちんとしていただかないといけません。理解なさいましたか、レイン?」
「っ……♡ は、い……♡」
「では、今後の方針に満足していただけましたね?」
「……はい……ありがとう、ございます……」
言葉を絞り出したレインの顔を上げさせ、ランスが美しく微笑んだ。
「頑張って改心していきましょうね」
悔しいのか悲しいのか分からない涙がこぼれた。
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