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傷心の時間

 近頃はたしかに、楽ではあった。双子はもういじめてこなくなったし、ランスも大人しくなって調教だなんだと精神をすり減らすこともなくなった。  しかし、ここまで苦痛に震えることになろうとは。 「は……は……ぁ」 「なんだ、たるんでやがるな。甘やかされすぎてんじゃねえのか?」 「ひぎっ!」  バチリと臀部を叩かれて跳ねる。久しぶりに呑み込んだエバンスの怒張は意識が遠のくほど長大で、ほとんど快感を感じられなかった。一応準備をしていたおかげで何とか無理やり深くまで咥えこんだものの、内臓が抉られる苦痛が怖くて身動きがとれない。 「おら、さっさと動けよ」 「ふ……ぐ……ッ、あ゛ぅ……」  エバンスの腹筋に手をついて踏ん張るが、本能が拒否してしまって力が入らない。身じろぐばかりのレインにエバンスの目が冷たくなっていく。 「適当にやり過ごそうってんじゃねえだろうな」 「っ……ちが……」  見かねたエバンスが手を伸ばし乳首を抓るが、それもほぼ意味がない。今のレインは恐怖と痛みに支配されてしまっているのだ。性器を扱かれようともうどうしようもない。 「そんなに命令されてえのか?」 「ッ、ちが、ごめ、ごめんなさいっ」  レインは震えた。エバンスの命令は本当に容赦がない。ランスのように意識まで操るのではなく、体だけを動かすよう指示してくるのだ。このまま腰を振れとでも言われれば地獄がくる。 「ごめんなさい、いたくて……っ、いたくて動けないの……っ」  涙をこぼすレインの訴えにエバンスは鼻を鳴らした。 「それはオレには関係がねえな」 「う、ぅ」 「他の奴らはどうも骨抜きみてえだからな。ちゃんと罰も与えてやらなきゃ調子に乗るだろ」 「あ、ぎっ……!」  引きちぎる勢いで乳首を引っ張られる。怒張が嵌って逃げられもしない。 「ほら、オレをイかせるまで終わらねえぜ? もっと気張れよ」 「あ゛ッ、ぅ」  腰を揺すられると命を脅かされる感覚に苛まれた。痛覚があるせいで余計に辛い。レインは泣きながらわななく体を必死に持ち上げた。 「ひ、うぅ……ッ、あ゛ぁ……っ」  全身が悲鳴を上げている。こんな状態ではエバンスも気持ちよくはないだろうに、レインを眺めて笑みを浮かべている。趣味の悪い男だ。 「毎度処女に戻るってのも大変だよなぁ」 「ッ……ふ、ぅ……」 「まあガバガバになるよかずっといい。おらさっさと動かねえと萎えちまうぞ」 「お゛ふッ!」  いたずらに突き上げられてレインは情けなく呻いた。生身なら吐いていただろう。いや、今も吐けるものがあるなら吐きたい。  レインは嗚咽とともに長い間腰を動かし続けたが、やはり硬い動きではエバンスを悦ばせることはできなかった。麻痺することの無い感覚は延々と苦痛を訴え、レインはとうとう子供のように泣きじゃくった。 「ごめんなさい、ごめんなさい……っ、もうむり、できない……っ」 「……」 「いたい、くるしいよぉ……ごめんなさい……ごめんなさい……」 「しかたのねえやつだな」  エバンスの深いため息にレインの心は傷ついた。無能だと見なされることは昔から恐ろしい。  エバンスは身を起こすと、繋がったままレインを押し倒した。察したレインが悲鳴を上げる間もなく、エバンスが腰を深く打ち付けた。 「ぎゃぅッ!」  視界が明滅する。エバンスは悶え苦しむレインを容赦なく蹂躙した。苦痛に叫ぶレインを笑いながら犯すエバンスはさながら悪魔のようだった。 「あ゛ッ、ゔあ゛ぁッ! かはッ!」  エバンスの大きな手にかかればレインの手足などまるで枝だ。好き勝手に脚を開かれ、腕を掴まれ、腹が裂けそうなほど怒張を捩じ込まれる。 「ごめんな゛さいッ、ごめッ、ゆ゛るしでぇッ!」  もはや意味のない謝罪を繰り返すレインの腹にたっぷりと精液が注がれた。      エバンスはノリの悪いレインに興味を失ったか、レインをそのまま放置して帰っていった。体の震えがなかなか治まらない。全身が軋んで最悪の気分だ。  誰かに優しく抱きしめてもらいたい。そう思って、レインは毒されてしまった自分に嫌悪感を抱いた。どこまで飼い慣らされてしまったのだろう。  レインはここ最近で一番トゲついた心になり、ふらつく体を引きずって後処理を済ませた。ランスが様子を見に部屋を訪ねてきたが、レインはすべて無視をして一日中布団を被っていた。   *   「レイン……レイン。どうか返事をして」  眠れないのが辛いと思う日が来ようとは。レインは三度目のランスの呼びかけに、ようやく杖を握って部屋の鍵を外した。ベッドから起き上がる気力はない。 「大丈夫ですか。ずっとふさぎ込んでいるようですが」 「……」 「エバンスに酷くされたのでしょう。私でよければ慰めますよ」  そっと布団の上から手を添えられ、思わず抱きつきたくなる。しかしそんな自分も嫌になっているのでレインはひたすら丸くなった。 「ねえレイン」 「……」 「……口も聞きたくない?」  悲しそうにランスが言う。きっとこれは全部策略なのだ。胸の内を晒して、わざとエバンスに酷いことをさせて、自分が慰めることで株を上げようという計算なのだ。調教の時にも何度も繰り返されたことだ。 「こんなとき、貴方になにをしてあげれば良いのか……愛してあげるなどと言って、私はセックス以外の触れ合いを想定していませんでした。愚かしいですね……」  声は悲しげだが顔は見えないから信用ならない。レインは固く目を瞑った。 「そばにいることも、障りになりますか?」 「……」 「私も、散々酷いことをしてきましたから……私では駄目でしょうか」 「……」 「誰か……双子か、クリスを呼びましょうか。それなら慰めになりますか?」  レインはもどかしさに拳を握った。賢者に甘えること自体を避けたいのに、優しくされたくてたまらない。 「……ひとまず、クリスに声をかけてみます。彼なら時間があるでしょうから」 「いらない」  咄嗟に断ってから後悔する。そして後悔に舌打ちする。 「……学校に、行く」 「……そうですか。無理はしないでくださいね」  ランスは物分りよく部屋を出ていってしまった。ちぐはぐな心に気が狂いそうだ。  レインはひと通りやり切れない気持ちに悶えて、それごと服を脱ぎ捨てた。     「今日は疲れてるみたいだね、レイン」  ハルはレインをよく見ていると思う。 「虫の居所が悪い。近寄るな」 「そうなんだ……つらかったら言ってね。レインは溜め込んでしまうでしょ」  ハルは気分を害した様子もなく笑った。 「君がひとりで苦しんでるって思うと、オレまで苦しくなるんだ。だから遠慮なく頼ってね。勉学ではかなわなくても、悩みは共有できるから」 「……」  ハルともっと早く出会いたかった。憎悪に魂を染める前にハルのような友人と、プレアデスのような大人がいてくれたなら、レインは人間のまま終わることができただろうに。  ざわつく心情のまま迎えた実技授業は、おあつらえ向きに敵を倒すものだった。教師が発現させたゴーレムを相手に魔法を放ち壊すという内容だ。 「ではペアでチームを組んで」 「レイン、一緒にやらない?」  すかさずハルが話しかけてくる。近寄るなと言ったのを守っているのかいつもより遠いところにいる。 「俺は組まない」 「どうして?」 「ひとりで壊せるから」 「強いね! じゃあオレのことを見守っててくれたらいいよ」 「……それじゃ人数不利だろ」 「あぶないときに助けてくれたらうれしい」  ハルはいたって真剣に言う。レインは毒気を抜かれて了承した。魔法の扱いはよくできているからサポートだけで済むだろう。  レインはむしゃくしゃした気持ちを抑え込んで、ゴーレムを一撃で粉々にすることは我慢した。そのかわりハルを後衛に置いてゴーレムの真ん前に立つ。 「本当にいいの?」 「ああ、好きなようにゆっくりやれ」  教師が始まりの合図を出す。レインは振り下ろされる岩の拳を杖の先で受け止めた。 「えっ……」  杖を振って弾く動作に生徒たちがざわめく。ハルは慌てることなく詠唱し、ゴーレムめがけて火の玉を撃った。 「弱い。切り離すことを意識しろ」 「うん!」  レインはゴーレムの攻撃をことごとく弾いてみせた。シールドはともかく他の魔法はまだ習ってはいないので、レインの評価はあまりあがらないだろう。まあそんなものはどうでもいい。  一歩踏み出そうとしたゴーレムの足元から蔓を生やして固定する。押さえつけて拳を止めればもうなにもできはしない。 「これでどうだ!」  ハルの放った氷の斬撃が腕を切り落とす。何度も攻撃を繰り返して、ゴーレムは胴体と片足だけになって倒れ込んだ。 「とどめはレインが刺しなよ」 「……」 「憂さ晴らしに。ね」  ハルがウインクする。レインは息をついて、見せびらかすように火の玉を浮かせた。皆の目の前で球を絞り、胴体へ放つ。火球は体内にめり込むと起爆してゴーレムを内側から砕いた。 「かっこいい~! 今度オレにも教えて!」 「……ああ」  教師は顔色を悪くしていたが、レインは少しもやが晴れた気分だった。

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