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甘える時間:ランス
「エバンスも鬱憤が溜まっていたようです」
そんなことを言われてもそうですかと受け入れることはできない。命令されなかっただけマシか。
「ここのところカイラの魔獣が活発になっているらしく、対応に追われているとか」
「……ホランでも魔物が増えてるって聞いた」
「実は他国でも似た報告がありまして……なにかの予兆ではないかと私たちは考えています」
魔族が活発になるのは大抵大地の魔力が乱れているときだ。乱れの蓄積によって大きな災害が起こることが多い。
「今はまだ特定には至っておりませんが……貴方はなにか感じたことは?」
ランスが探るようにレインを見つめた。
「魔力の乱れの原因は多岐に渡る。いくら叡智を持とうと断定は不可能だ。ホランの魔物も強化された様子はなかったし、不吉ってほどじゃないだろ」
「そうですか」
ランスは素直に頷いた。この男、本当に皮肉な部分がなくなった。
「……それで、お加減はいかがです」
「あ?」
「ふふ、まだご機嫌ななめのようですね。なにか慰めになるようなことはありませんか。できる範囲で用意しましょう」
「……やけに甘いな」
レインが胡乱な目を向けるとランスは苦笑した。
「吹っ切れたといいますか。貴方を辱めるより、甘やかな時を過ごしたほうが存外幸せだったもので」
レインの手を掬う仕草はただ優しい。
「いじわるをする私は嫌いだと言われたので。貴方の言う通りずっとやさしいランスでいてみようかと思うのです」
そんなことを言っただろうか。おそらく正気のときに出た言葉ではない。
「私の匂いは好きだと言ってくださいました」
「……まあ、嫌な匂いじゃないけど」
「撫でられるのも好きだと」
「……」
「撫でても構いませんか?」
気まずくなって目を伏せると、了承と取ったかランスが柔らかく頭を撫でた。そっと髪の毛を梳いて頬をくすぐる。最後の触れ合いがエバンスだったのでその優しさが余計に沁みた。
「抱きしめてもいいですか」
「……いちいち了解なんか取るな、今さら」
微かな笑い声が降る。抱き寄せられた温もりに、レインは敗北感を味わった。もうどうあっても抗えないのだ、賢者たちには。知らなかった頃には戻れない。
レインは花の香りを吸い込み、ランスの背に手を回した。
「ラン、ス」
「はい」
「いたかった」
胸元に顔を埋めて吐露する。
「苦しくて痛くて怖かった……」
「そうでしたか」
ランスがあやすようにレインの背を叩く。レインはすべて諦めて、欲望に従うことにした。
「ランス……」
「なあに、レイン」
「……ベッド、行きたい」
目を合わせられないままそう言うと、ランスの指がレインの指に絡んだ。
双子も優しく触れてくるが、今のランスも同じくらいやさしくて丁寧だ。余裕のなさは今日は見えず、少し熱を取り戻したように思える。
「……っ♡」
体の至るところにキスを落とされ、レインはくたくたに蕩けていた。受けた暴力が癒されていく。
「気持ちいい?」
「……ん……♡」
ランスはレインの欲しがる所を見透かすようだった。口も、乳首も、内側も。優しく触れられてとろとろにされていく。
「ランス……っ♡ イ、く……、イ……っ♡」
甘い痺れが全身に走り、レインは勢いなく白濁を漏らした。じんわりと絶頂が広がっていくようだ。
「あ……ぅ……っ♡」
「ふふ、可愛らしい」
ランスは意地悪などひとつもしなかった。ひたすらレインが求めている刺激を与えてくれて、言葉で責めることもしない。
「らんす、おく……♡ はらの、おく……ほしい……♡」
「怖くない?」
「ん……♡ らんす、なら、いい……♡」
ランスは微笑んでキスをした。頭の中が多幸感でいっぱいだ。
「ん♡ ぅ♡ んぁ♡」
太腿にもキスをして、熱いモノが狙いを定める。ランスはゆっくり、ゆっくりと昂りをレインの中へ飲み込ませていった。
「ぁ、あぁぁ……♡ ぁ……♡」
あんまり優しい快感に悲鳴を上げる。気持ちよすぎて怖いなんてことが起きるとは。
「痛くない?」
「っ……ぅん……♡ きもち……いい……っ♡」
抽送とは言いがたい、ゆるゆるとした動きで腹奥をノックされる。僅かな動きのまま再び全身の愛撫を受け、レインは何度もランスの昂りを締めつけて達した。
「ふ……よろこんでくれて、嬉しいです」
「ぁ……ぅ……♡ らん、すぅ……っ♡」
頬を撫でる手を取って指を咥える。滑らかな指先に舌を弄ばれるとゾクゾクして、自分のものとは思えない高い声がもれた。
「らんす……♡ うご、いて……♡」
腰を揺らすとランスが息を詰まらせた。ずっと締めつけられているのだから彼もつらいだろう。
「らんすも、きもちよく……なって……♡」
「苦しくしてしまうかも」
「いい……♡ いっしょに、きもちよくなりたい……♡ らんす……♡」
ランスは微笑んで、レインの腰に手を添えた。
「……ぁ♡ ん♡ ぅ……あっ♡」
あくまで優しく、でも欲も伴って熱が打ち付けられる。レインは甘すぎる快楽に悶え、力の入らない手で枕に縋った。
「ぁ……あっ♡ あ♡ ん♡ ぁ♡」
「レイン……」
ランスの吐息が近づく。レインは自分から唇を差し出し、ランスの体にしがみついた。全身が熱に浮かされている。こんなに気持ちいいのに、何を嫌がっていたのだろう。
「らんす♡ すき、すき……っ♡」
うわ言を繰り返すレインを宥め、ランスが終わりへ向かう。
「あ♡ ぁ♡ あっ♡ あぁぁぁ……っ♡」
レインはことさら強くランスを締めつけ、ランスとともに果てた。たくさんの幸せがレインの体を満たしている。
とろとろになって身を投げ出すレインを、ランスが満足気な笑みで見下ろしていた。
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