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第16話
んっ......
ベッドが沈む感覚で目が覚める
「起こしてしまったかな?」
「んっ......早いですね」
彼は、もう服を着て支度を済ませていた
「あぁ、王都から通達があってね。少し仕事に行ってくるよ」
ベッドに座った彼の側まですり寄る
「何かあったんですか?」
「一部の町で不審な動きがあったらしくてね。王宮へ駆り出される。そのまま、夜会に参加という形になりそうだ」
「そうですか......」
「ノアも連れていくから、付き添いは、キオラに頼んである。夜会、君の晴れ姿を楽しみにしているよ」
んっ......んんぅ
軽く啄むキスを交わす
「はぁ~っ、いっ、てらしゃいまへ」
「いってくるよ。そのままでいい。昨夜は無理をさせたから」
「!」
家の主人が家を空けても、公爵家はいつも通りの日常が過ぎて行く
嵐は、ドレスの完成品納品日にやって来た
「たのも~!」
そう門を叩く声に出ていったのは、家政婦長のマーサさん
「はいはい、なんでしょう」
「クレデリット伯爵家の者です」
「大変、申し訳ないのですが......当主不在のため、改めてご訪問なさって下さいまし」
「使用人風情が無礼なっ!幸福の花嫁を連れて参った者であるぞっ」
そう喚く小太りの男の後ろに見事な銀髪の少女が立っていた
「恐れながら、当主は既に――」
マーサさんが断りの言葉を口にしている途中、開いたままのドアから屋敷に明るい声が響いた
「ドレスの納品に伺いました~」
「まぁ!素敵な色のドレス!きっと、私にね?」
「「えっ?」」
唖然とするマーサさんと納品しにきたマーフィーさんを他所に銀髪の少女がドレスに駆け寄った
「まぁ!ぴったりよっ、良くできてるわっ!」
「本当に似合っているよ、ミザリー。君のためにあつらえたドレスのようだ」
「そのドレスは、この度の夜会用に当主夫人の為に作ったものですので......」
正気を取り戻した2人がドレスを取り返そうとする
が、彼女の方が斜め上を行っていた
「あら?じゃあ、私で間違えないじゃない?」
そう言った彼女は、屋敷をズンズン進んでいく
「お待ち下さい!お客様は、奥までお通ししていません!」
「お客では、ないわっ!当主夫人よ!奥様とお呼び!」
屋敷には、ノアさん不在でお尋ね者の2人を止められる力がある男性の使用人は、いない
僕だけ
そう思って深呼吸して、2人の前に進み出る
「おいっ!退かんかっ!無礼だぞっ!」
「無礼を承知で申し上げます。お2方は、クレデリット伯爵家出であると仰いましたが......裏を取れるものをお持ちですか?」
「なんだと!?」
「あなた......仕立てのいい服を着てるわね......しかも、銀髪」
少女が値踏みするような目でこちらを見る
「もしや、お前がクリスという偽物かっ!」
途端、ものすごい力でひっぱたかれて、その場に崩れ落ちる
「「奥様!」」
「出ていきなさい!今すぐ!汚れた血など公爵家の恥だわっ」
「っ――!」
何のことを指されているのか、わかった
いや、わかってしまった
ここ最近、悩んでいたあの火事のことだ
弟 を助けられなかったあの――
「奥様?奥様?」
「それを奥様と呼ぶなっ!この指輪も私のもの」
スッと僕の指から抜かれたのは、あの日彼に貰ったサファイアの指輪
「これから屋敷の女主人は、ミザリー・クレデリット。私です」
そう言った彼女の口が弧を描く
視界の端には、悔しそうなマーサさんたちの姿が映る
それが少し、救いだった
あっという間の出来事で、泣く暇もなかった
僕の居場所がなくなった
その事実だけが残る
まるで、今までの全てが夢だったように
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