16 / 39

第16話

んっ...... ベッドが沈む感覚で目が覚める 「起こしてしまったかな?」 「んっ......早いですね」 彼は、もう服を着て支度を済ませていた 「あぁ、王都から通達があってね。少し仕事に行ってくるよ」 ベッドに座った彼の側まですり寄る 「何かあったんですか?」 「一部の町で不審な動きがあったらしくてね。王宮へ駆り出される。そのまま、夜会に参加という形になりそうだ」 「そうですか......」 「ノアも連れていくから、付き添いは、キオラに頼んである。夜会、君の晴れ姿を楽しみにしているよ」 んっ......んんぅ 軽く啄むキスを交わす 「はぁ~っ、いっ、てらしゃいまへ」 「いってくるよ。そのままでいい。昨夜は無理をさせたから」 「!」 家の主人が家を空けても、公爵家はいつも通りの日常が過ぎて行く 嵐は、ドレスの完成品納品日にやって来た 「たのも~!」 そう門を叩く声に出ていったのは、家政婦長のマーサさん 「はいはい、なんでしょう」 「クレデリット伯爵家の者です」 「大変、申し訳ないのですが......当主不在のため、改めてご訪問なさって下さいまし」 「使用人風情が無礼なっ!幸福の花嫁を連れて参った者であるぞっ」 そう喚く小太りの男の後ろに見事な銀髪の少女が立っていた 「恐れながら、当主は既に――」 マーサさんが断りの言葉を口にしている途中、開いたままのドアから屋敷に明るい声が響いた 「ドレスの納品に伺いました~」 「まぁ!素敵な色のドレス!きっと、私にね?」 「「えっ?」」 唖然とするマーサさんと納品しにきたマーフィーさんを他所に銀髪の少女がドレスに駆け寄った 「まぁ!ぴったりよっ、良くできてるわっ!」 「本当に似合っているよ、ミザリー。君のためにあつらえたドレスのようだ」 「そのドレスは、この度の夜会用に当主夫人の為に作ったものですので......」 正気を取り戻した2人がドレスを取り返そうとする が、彼女の方が斜め上を行っていた 「あら?じゃあ、私で間違えないじゃない?」 そう言った彼女は、屋敷をズンズン進んでいく 「お待ち下さい!お客様は、奥までお通ししていません!」 「お客では、ないわっ!当主夫人よ!奥様とお呼び!」 屋敷には、ノアさん不在でお尋ね者の2人を止められる力がある男性の使用人は、いない 僕だけ そう思って深呼吸して、2人の前に進み出る 「おいっ!退かんかっ!無礼だぞっ!」 「無礼を承知で申し上げます。お2方は、クレデリット伯爵家出であると仰いましたが......裏を取れるものをお持ちですか?」 「なんだと!?」 「あなた......仕立てのいい服を着てるわね......しかも、銀髪」 少女が値踏みするような目でこちらを見る 「もしや、お前がクリスという偽物かっ!」 途端、ものすごい力でひっぱたかれて、その場に崩れ落ちる 「「奥様!」」 「出ていきなさい!今すぐ!汚れた血など公爵家の恥だわっ」 「っ――!」 何のことを指されているのか、わかった いや、わかってしまった ここ最近、悩んでいたあの火事のことだ (アル)を助けられなかったあの―― 「奥様?奥様?」 「それを奥様と呼ぶなっ!この指輪も私のもの」 スッと僕の指から抜かれたのは、あの日彼に貰ったサファイアの指輪 「これから屋敷の女主人は、ミザリー・クレデリット。私です」 そう言った彼女の口が弧を描く 視界の端には、悔しそうなマーサさんたちの姿が映る それが少し、救いだった あっという間の出来事で、泣く暇もなかった 僕の居場所がなくなった その事実だけが残る まるで、今までの全てが夢だったように

ともだちにシェアしよう!