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第17話
僕の居場所はなくなって、手持ちは3000G
独りで細々と暮らすには、充分な蓄えだったけど、万一のことを考えて職を探した
が、当然学校にさえ行っていなかった16歳の僕を雇ってくれる所なんてなくて......
数日間街をさ迷っていると、偶然マーフィーさんと会った
「あっ!おくさまっ!」
「マーフィーさん!」
「こんな、細腕に沢山傷つけて......探したんだよ?」
「えっ?」
そういえば、僕が追い出された日、マーフィーさんも居た
「あんな、下品な奴らに......ごめんなさいね。逆らえなくて、これ」
少し皺のある手から落ちたのは、サファイアの指輪
「これ......どうして?」
「あの後、ドレスを脱がせるのを手伝わされた時に、ね?」
茶目っ気たっぷりにウィンクしてくれる
「ありがとうございます。あの......」
「お返しは、うちで働いて返してくれないかね?綺麗になってわからなかったが、おくさま......仕立て屋クリゴーの息子だろ?」
少し暖かい手が僕の頬を撫でる
「どうして......」
「あなたのお父さんとお祖父さんには、お世話になったのよ。職、探してるんでしょ?」
「はい......ありがとうございます!」
マーフィーさんの営む仕立て屋さんで働くようになって、数ヶ月大きな変化が2つあった
夢が夢だけでは、終わってくれなかった
1つは、レノンドアール公爵家当主の恋人がゴシップされたこと
そしてもう1つは......
「クリス?もう、その辺にしておいて早く休んで?お腹に障るわよ......」
「ん、わかりました。きりのいいところで、切り上げます」
そう、もう1つは、僕が妊娠していたこと
勿論、父親は、噂の渦中にあるレノンドアール公爵家当主
でも......
この子が父親に恵まれることは、なさそうだ
少し目立ってきたお腹を擦りながらゆっくりと作業していた椅子から立ち上がる
最近、ちょっとしたことでお腹が張って逆子になる
間借りした自宅 と産院を往復する生活を送っている
安定期に入り、悪阻は治まったものの......体調が万全であるとは、言い難い今日この頃
「お先に失礼します」と仕事場を出て、部屋に帰る
ベッドによじ登って、脚を広げて楽な姿勢をとって、目を閉じる
すると、トクントクンとかすかに自分の鼓動とは別の鼓動が聴こえる
お腹を擦りながら、話しかけるように独りごちる
「赤ちゃん、ごめんね。弱いトト で。不安な 気持ちも、全部君に伝わってるんでしょ?ごめんね......なんとか2人で暮らしていけるだけの環境を整えるからっ!」
すると、それに応えるようにポコッと内側から蹴られる
「っ!......強くなる、から。元気に産まれて来てね」
それから数日後、公爵家から仕立て屋に花嫁衣裳のオーダーメイドが入った
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