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海
誉 side
海が好きだった。幼い頃は休日になると、両親と一緒に、近場の浜辺へよく足を運んだのを覚えている。
裸足でくるぶしまで海水に浸かる。キラキラと太陽の光を反射する水面が眩 しい。
穏やかに揺れる波を眺める。足首にまとわりつきながら沖へと戻っていく、砂の感触が楽しかった。
何時間でもそうしていられた。笑い声を上げる自分を、両親が微笑みながら見ていた。
けれど。ある日突然、父親が消えて。それからは海に行くことはなくなった。
それ以来、20代後半を迎えたこの歳まで、なんとなく海は避けてきた。
あんなに好きだったのに。今では、自分から最も遠い存在のように思えた。
それでも。こうして、水槽とか、プールとか、水がゆらゆらと揺れているのを目にすると。
あの時の、眩 しいぐらいに輝いた海の水面を鮮やかに思い出す。
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