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甘い蜜
本当に不思議なのだが。誉にはどうやらゲイや、ゲイでなくとも、男たちを吸い寄せる何かがあるらしい。確かに顔は酷くはない。あのホストほどではないが、年齢より若く見られるし、アイドルのような甘い顔だと言われる時もある。だが、自分では平均の域を超えないレベルだと思っている。
だとすると、何に引き寄せられるのだろう。匂いとか? 蝶 が甘い蜜に誘われるように、自分もそんな匂いを発しているのだろうか? いやらしい、淫乱な香り。
あり得るかもしれない。自分には、男の相手をすることぐらいしか才がないし。まあ、本当のところはどうであれ、男と関係を持つようになってから、相手に困ったことがなかったのは事実だ。ただ、寄ってくるのは、ろくでもない男ばかりだったが。
相手が誉にハマりすぎて面倒だったこともある。「ビッチ」だの「淫乱」だの陰口を叩 かれたこともある。それでも、東京へ上京してきて生活に困窮していた頃は本当に助かった。そのおかげでなんとか生活が定着し、こうして故郷に帰らず東京に留まることができているのだから。
たとえ、底辺でも。
「店長、7番テーブル、お帰りです」
「ああ、了解」
また、思考がどこかに飛んでいた。今夜はどうも仕事に集中できない。昔のことばかり思い出す。こんなことは珍しい。面白みもなんにもない生活を淡々と続けてきて、最近では物事を深く考えることなんて全くなくなったのに。毎日同じことの繰り返しの、そんな状況に嫌気が差してきたのだろうか。しかし、嫌になったところで逃げることもできない。
もう、ここにしか自分の居場所はないのだから。
誉は、頭の中を意識的に無意識にして、客を見送るために店の玄関へと足を進めた。
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