15 / 73
どうでもよくなっていた ★
「九条先生は、実家にはお帰りにならないんですか?」
「…………」
今日は鬱陶しいほど女が饒舌 だった。ずかずかと千晃の領域に入ってくる。この女はもっと賢いかと思っていたのに。千晃は、不機嫌さを隠そうともせず聞き返した。
「それ、どういう意味?」
「え? あ……すみません。お父様の病院をお継ぎになるのかなと思って……」
「帰る予定はないけど」
「そうですか……あの、本当にすみません。さしでがましいことを聞いて……」
女は謝ると口を閉じた。千晃の自宅マンションへ着くまでの間、それ以上の会話はなかった。
饒舌 だった理由はこれか。
いつもはこちらの顔色を必要以上に窺 ってくるような女だったが。おそらく、確かめたかったのだろう。千晃にこのまま体を売り続けて、それに見合う見返りがあるのか。見込みはあるのか。関係を続けて1年経っても何も変化のない状況に痺 れを切らしたというところか。
馬鹿な女だ。だから、最初から言ってあったのに。情はないと。
リビングに入ってすぐ、女を革張りのソファに押し倒した。女はシャワーを浴びたがったが、それを無視して半ば強引に服を脱がせていった。乱暴に女の胸を揉 み出す頃には、女はわざとらしい声を上げて、抵抗どころか自ら千晃に巻き付いてきた。
この時点で、千晃にはこの女がだれなのか、どうでもよくなっていた。
最初からそうか。
それに。もうきっとこの女とは2人で会うこともないだろうし。千晃へと無遠慮に距離を縮めてくる人間は必要ない。女も勘付いているに違いない。今日は必要以上に喘 ぎ、必要以上に従順だ。だが、そんな風に繋 ぎ止めようとしても、もう遅い。この関係は、すでに終わっている。
「あっ……もうっ……挿 れて……」
そう女が懇願してきた。千晃は、もうすっかり興味を失ったこの行為を終わらせるために、さっさと服を脱いで、女の中へと入っていった。
ともだちにシェアしよう!