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どうでもよくなっていた ★

「九条先生は、実家にはお帰りにならないんですか?」 「…………」  今日は鬱陶しいほど女が饒舌(じょうぜつ)だった。ずかずかと千晃の領域に入ってくる。この女はもっと賢いかと思っていたのに。千晃は、不機嫌さを隠そうともせず聞き返した。 「それ、どういう意味?」 「え? あ……すみません。お父様の病院をお継ぎになるのかなと思って……」 「帰る予定はないけど」 「そうですか……あの、本当にすみません。さしでがましいことを聞いて……」  女は謝ると口を閉じた。千晃の自宅マンションへ着くまでの間、それ以上の会話はなかった。  饒舌(じょうぜつ)だった理由はこれか。 いつもはこちらの顔色を必要以上に(うかが)ってくるような女だったが。おそらく、確かめたかったのだろう。千晃にこのまま体を売り続けて、それに見合う見返りがあるのか。見込みはあるのか。関係を続けて1年経っても何も変化のない状況に(しび)れを切らしたというところか。  馬鹿な女だ。だから、最初から言ってあったのに。情はないと。  リビングに入ってすぐ、女を革張りのソファに押し倒した。女はシャワーを浴びたがったが、それを無視して半ば強引に服を脱がせていった。乱暴に女の胸を()み出す頃には、女はわざとらしい声を上げて、抵抗どころか自ら千晃に巻き付いてきた。  この時点で、千晃にはこの女がだれなのか、どうでもよくなっていた。  最初からそうか。  それに。もうきっとこの女とは2人で会うこともないだろうし。千晃へと無遠慮に距離を縮めてくる人間は必要ない。女も勘付いているに違いない。今日は必要以上に(あえ)ぎ、必要以上に従順だ。だが、そんな風に(つな)ぎ止めようとしても、もう遅い。この関係は、すでに終わっている。 「あっ……もうっ……()れて……」  そう女が懇願してきた。千晃は、もうすっかり興味を失ったこの行為を終わらせるために、さっさと服を脱いで、女の中へと入っていった。

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