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息を呑んだ

 入り口で手続きを済ませ、ロッカーへと向かう。きょろきょろと周りを見回してみたが、誉らしき姿はどこにも見えなかった。  やっぱり、帰ったか。  そう思いながら、ロッカーで服を脱いでタオルを(つか)むと、サウナが併設している大浴場へと向かった。大浴場には数えるほどしか人がいなかった。手早く体を洗い流す。  すでに閉館時間に近い時刻だったので、サウナにはだれもいないだろうと、完全に油断した状態で中に入った。が、中には先客たちがいた。驚きつつ離れて座ろうと、移動しながらなんとはなしに彼らに顔を向けたのだが。  あ。  軽く息を()んだ。  熱気が漂うサウナ室の奥。2人組で座っている片方の男。  こんなところにいたのか。  鏡の中でしか見たことのない誉の姿が、目の前にあった。誉も大きな目を最大限に開いてこちらを凝視していた。時間にしてきっと数秒。お互い言葉もなく見つめ合った。 「誉さん?」  誉の隣に座る若い男が口を開いたことで、はっと我に返った。誉の影からこちらをじっと見てくるその視線には、明らかに敵意を感じた。そこで、この2人はおそらくただの友達や知り合いなどではないのだなとピンときた。  千晃はとりあえず他人のフリをすることを選んだ。どちらにせよ、お互い声をかけるタイミングを完全に失ってしまったことだし。すっと誉から目を逸らすと、2人とは対角線上の一番離れたところへ座った。目を閉じて熱さだけに集中する。  誉も千晃の意図を一瞬で見抜いたのか、隣の男に「なんでもない、ちょっと、ぼうっとしてきただけだから」と説明して誤魔化していた。

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