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第3話 グレイの事情

「気がついていたか」 「気がついたというか……初めから知っていました。隠しておられるようなので、何か理由があるのかなとは思っていました」  俺の灰褐色の髪も瞳も、少し黄みがかった肌も、ヒト族では珍しい方だ。  ヒト族としてはそこそこの体躯をしているが獣人としては小柄な方で、獣の耳も尾もない。  爪もヒト族のように整えているし、牙は昔に抜かれてしまったから、明らかに獣人と示す特徴はないはず。 「知っていた?」 「気配がヒト族のそれではないですし、身のこなしが。でも、何の獣人かまでは」  子どもの頃からヒトに紛れていたし、種族は細心の注意を払って隠していたから、そこまでは見抜けなかったんだろう。 「狼だ」 「おおかみ……」  俺の種族を告げたら、リコが目を見張って絶句した。  世間知らずだけど狼獣人が絶滅寸前だということは知っていたらしい。  リコの目が、改めて俺の姿を確かめる。 「狼の純血はほとんど残っていない。俺も混血だしな……俺は、同族の生き残りを探している。まあ、出会ったからってどうするってわけじゃない。ギルドを通してここにいたぞと知らせ合うくらいだ」 「同じようにヒト族の中で過ごしてらっしゃる方がいる、ということですか?」 「ああ。それでお互いに消息を知らせ合っている、ってだけの話。同族がどこかにいるっていうのは、それだけで心強いからさ」  ヒト族は数が多いし、群の感覚が薄いからわからないかもしれないが、狼は群れなす生き物だ。  自分が一人ではない、同族がいる、というのは俺たちにとっては支えになるのだ。 「隠しているのは狼だからじゃなくて、俺が脱走奴隷だから。子どもの頃にとっつかまっちまってな。耳と尾は生まれつきヒト族と変わらないけど、牙は奴隷の時に抜かれた。で、まあ……いろいろあって脱走した。ずいぶん前の話だし、もう探されてもいないだろうけど、狼は数が少ないからそこから足がついても拙いだろうと思って、念のために隠している」  リコは生真面目な表情で俺の話を聞いていた。  何を言うでもなく、けれどすべてをきちんと聞いておこうそんな感じの態度。 「俺の事情はこの程度だ。だからなんてことはない。お前を連れて国を縦断するのも、俺には都合がよかったから、気に病むことはない」 「はい」 「それにな……あー……俺は狼だ」 「はい」 「だから、一度懐に入れたモノは大事にするし、絶対に守る」 「はい……今のグレイのお話は、わたしの事情に繋がるのですね」  世間知らずだけど阿呆ではないリコは、ちゃんと俺の言いたいことを汲んで、コクリと頷いた。  そう。  お互いに事情があることは承知の上で、そこに触れずにここまで旅してきた。  けれどもう限界だろうって、俺の勘が騒いでいる。  何が、ってわけじゃない。  ただ俺の勘がここで話をしておかなきゃ、何かを掴みそびれるぞと告げている。 「わたしは……わたしは、自分を探しているのです」  少し考え込んだリコが、小さな声ではっきりと言った。 「『自分を探している』?」  リコは確かにここにいて、自我を持っているように見えるのに、まだ何かを探しているのか? 「はい。グレイがわたしに声をかけてくれた村を、覚えていますか?」 「ああ」 「あの村から外れの山脈に向かう途中に、大きな森があります。その中にわたしの生まれた里があるのです」 「エルフの森……」 「わたしたちの言葉では『ラニ』と……わたしはそのラニの生まれです」

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