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第7話 本来の力
いつだったか。
まだ冒険者になって間もない頃に、俺にいろんなことを教えてくれた先達がいた。
そろそろ引退を考えているんだと言っていたその人は、口癖のように「言葉を尽くすのもいいけど背中を預けたら人となりがわかる」そう言っていた。
確かにそうだ。
この老騎士と数刻過ごして、いや、魔物を撃退している途中から、この人は大丈夫な気がしていた。
この人がリコは無事だというなら無事なのだろう、そう信じていい。
「さて、今夜はこのあたりで大丈夫かな」
血振りをして剣を鞘に収め、老騎士が言う。
今夜は少ない方だったと、他の人たちと笑いながら、魔物の死骸を焼き払う。
指を振るだけで何もない所に火がともるのは、魔法というヤツだろう。
戦いながら教えてくれたのは、ドラコというこの人が元辺境伯なのは本当で、竜族故に寿命が長すぎて弊害が出るから早々に引退したこと、カプアというのは『森の愛し子』でリコの言うところの兄で、ドラコと伴侶になったが故にここに根を張って守護樹になってしまったのだということ。
それから。
「よし、では次だ。こちらへおいで、グレイ」
俺は牙がない故に、本来持っているはずの魔力が使えていないらしいこと。
そんなことが出会ってすぐのヤツにわかるなんてと思ったけれど、竜族と言われれば、そうなのかもしれないと思ってしまう。
ドラコの見立てでは、ほんの少し力を加えて牙を再生すれば、俺はもっと強くなれるのだという。
「わたしを信じてくれるのはありがたいし、嬉しいねえ。それにしても、迷いなく受け入れるなんて、お前もたいがいかわいらしいな若い狼」
「あんたは信じていいと、感じた。それに、強くなれるならそれに越したことはない」
ほんの一瞬気を取られた隙に、リコをさらわれたのは、痛恨の極み。
老騎士に笑われようと、守り見届けると約束したのに、こんな悔しい思いはもうしたくない。
老騎士が俺の眉間に指を当てる。
ふうっと体の中を風が吹いた。
両の手で顎を覆われて、口の中がほかほかと熱くなる。
体の表面の一面を覆っていた膜が、はぎ取られた感じがした。
今までより遠くの音が聞こえて、いろんな香りが鼻に届く。
「どうだい?」
「これは……」
「いくら混血とはいえ、牙がないことで力が滞っていたのだよ。お前の本来の力は、これくらいあったということだね。あとは使い方を覚えれば、強さはもっと増すだろう」
さあ帰ろう、と老騎士が俺を導く。
部屋を用意するからそこに滞在すればいいと言われて、頷く。
カプアが満足したら、リコは戻ってくるだろうとも。
膜が一枚はがれたことで、わかったことがある。
リコ。
お前が戻ったら、伝えたいことがあるんだ。
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