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第8話 甘い香り

 夜更けに甘い香りで目が覚めた。  ああ、やっぱりだと思う。  俺は力が滞ることで、嗅覚も鈍っていたんだ。  こんなに甘い香りなのに。  こんなに一生懸命俺を誘っているのに、俺の鼻には『落ち着く好ましい香り』としか感じ取れていなかった。 「リコ……おかえり」 「お怪我はないですか?」  用意された広い寝台の上にふわりと現れたリコは、いきなり俺の服に手をかけて、身体を確かめようとする。  本当に世間知らずでかわいいリコ。 「リコ、寝台の上で男の服をはぐ意味を、知っているのか?」  好きにさせながらそう問いかけたら、ぴたりとその動きが止まった。 「わ、わかっています……けど、あの……あの、グレイの……グレイにお怪我があっては……」 「リコ?」  手を添えて俺の方に顔を向けたら、見事に真っ赤になっていた。  ああ、気がついたんだ。  リコも自分の恋情に気がついたんだって、わかった。 「あのな、リコ、俺は狼だ」 「はい」 「一度懐に入れたら、大事にするし絶対に守る」 「はい」 「それにな狼は嫉妬深い」 「え?」 「番になったら絶対に離さないし離れないし、たとえ兄弟でもさらわれたらキレる」  それでもいいか?  リコの目をのぞき込んで問うと、ほろほろと涙がこぼれた。 「お前、昨日から泣いてばかりだな」 「グレイがわたしを泣かせるのですよ」 「いやか?」 「いいえ……いいえ、あなたがくださるものなら、どんな感情でもわたしは嬉しい……」 「じゃあ、もっと泣かせてもいいか?」 「もっと?」  涙をうかべたまま、リコは不思議そうに俺を見る。 「今ここで、お前を番にしたい。お前を泣かせると思うけど、もう、目の前でお前をさらわれるのは、ごめんだ」 「嬉しい……」  消えそうな声でリコが答えるのと同時に、甘い甘い香りがふわりと沸き立つ。  俺の。  これが番が俺を誘う香り。  誘われるままに唇にかみついて、舌を潜り込ませる。  口の中を愛撫しながら、服を脱がせてベッドに押し付けた。 「泣いてもいいけど、我慢はするな」 「はい」

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