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「なあジーナ、ダンスの練習してくんない?」 その日はたまたま、屋敷にいる守護騎士が俺だけで。ロロ達みんなが私用で留守だったから、ひとり修行に励んでたんだけど… 「ダンスって…お前、ヴィンにたくさん課題出されてたんじゃないのかよ?」 朝飯ん時に、ヴィンも女王様のとこ行くから、その分自主学習するようにって言われてさ。 セツは「こんなの一日じゃ終わんないよ~!」…って、メッチャ嘆いてたハズだけど…。 汗を拭いながら首を傾げる俺に対し。セツは言葉を濁しながらも答えた。 「これでも結構やったんだよ…。けどさ、気分転換も大事だろ?」 この様子だと、頭使い過ぎて耐えきれなくなったんだろう。セツはそうぼやくと、思いっきり背伸びしてみせた。 「で、なんでダンスなんだよ?」 「や…神子としての教養っていうか、さ。」 初めての舞踏会は、結局体調崩して休んじまったけども。次の舞踏会は是非にと、女王様と約束しちゃったからって。セツは困ったように笑いながら頭を掻く。 そういえば、こないだ陛下に呼ばれた茶会で話してたっけか。 けど、それなら… 「てか、なんで俺?…んなの、ルーとかアシュのが適任じゃんか。」 出来ないわけじゃねぇけどさ、どう見たって俺はダンスってガラじゃねぇし。 剣術の稽古とかなら、喜んでつけてやるんだけども。 「だって、みんな留守だし…」 まあ、そうなんだけど。 俺が微妙な反応を示すと、セツは物欲しげな目でジーッと見つめてくるもんだから。 身長はほんの少しだけ、俺より高いハズなのに。 上目遣いのような視線を向けられて… つい不覚にも、ドキドキしてしまった。 「…ダメ?」 「っ…や、ダメじゃねぇけど…」 セツってたまに、こういうスイッチ入れてくんだよなぁ…。本人は全く解ってないんだろうけど。 だからこそ、厄介っつうか… 一歩顔を近付け、お願いって…いきなり手まで握られて。慣れない感情の芽生えに俺は、内心たじろぐ。 「……わーったよ…」 「ホントか?やった~!」 最終的には根負けして。 喜ぶセツに不意打ちにも抱き付かれ…俺の心臓はバカみたいに、跳ね上がってしまった。 「とりあえず、1回やってみっから。」 こういうことは、体で覚えるのが一番だと。俺はセツと向かい合う。 まあ、細かい説明とか俺には無理だから? セツを女役にして、踊ってみせることにしたんだけど…。 良く考えたら、コレって… (ヤベェ…距離、近え…) 俺だって当然、教養としてダンスくらい学んだし。社交の場でだって嫌々ながら、何度も踊ってる。 そん時は相手のこととか、この距離感だとか。全く気にしたことなんてなかったんだけども… (相変わらず良い匂い、すんだよなぁ…) 香水とか不自然なもんじゃなくて。 セツの体からは、スッゲェ良い匂いがするんだ。 前に本人に言ったら、臭いのかって気にしてたけど…。 なんていうか、フェロモンみたいな? とにかくセツからは、めちゃくちゃ良い匂いがすっから…ヤバイ。 大差ない身長差で、顔もすぐ真横。 白く覗ける首筋辺りから漂うそれに。 俺の幼気(いたいけ)な心は、常に爆発寸前だった。 「ホラ、こっちの手は相手の腰を軽く支えて…」 下心、は勿論ある────が。 ダンスという名目にあやかり、セツの腰を抱き寄せる。もう片方の手は互いに握り合い…必死で覚えようとするセツの視線は、真っすぐ俺にだけ向いていた。 その視線が嬉しい反面、何処か切なくなる。 「やっぱり、ジーナも上手いんだな。」 リズムに乗り舞いながら。 セツはキラキラと、羨望の眼差しを向けてくる。 「そうか?こんくらい誰だって出来るけどなぁ。」 「お、オレは出来ないもん…」 成人男子がもんって…この距離で、拗ねたみたく唇を尖らせるセツに。無性に叫びたくなるのを…ギリギリのとこで耐え抜いた。 (可愛い過ぎだろ、コレ…) や…例え女でも、こんな態度されたらイライラすんのに。 二十歳過ぎの野郎がさ…普通に考えたらあり得ねぇんだけども。セツ相手だと、逆にアリだから不思議。 「んな顔すんなよ。セツの世界とこっちじゃ、なんもかんも違うんだろ?」 慰めるみたく額をコツンとぶつければ、セツはうんって頷いてみせる。 年上なのに、童顔ってのもあんだけど。 やっぱりセツは可愛いって思える。 俺が素直にんなコト思うのって、相当なんだけどな…。

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