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③
「大丈夫か、セツ?」
怪我してねえかと声を掛ければ、うんと耳元から返事がして。
「ゴメン、ジーナは平気?」
倒れた、そのままの距離で顔をのぞき込まれ。
忘れかけた熱がまた再浮上する。
(俺…)
こんな気持ち、初めてなんだ。
そう…セツに出会った、あの瞬間から。
「ジーナ…あ!肘擦り剥いてんじゃんか!」
「ああ?んなの大したことないって…」
生返事すれば、ダメって言ってセツは俺の腕を取る。
それから目を閉じて、しばらくすると…
セツの体が淡く光り始めた。
(スゲェ…)
やっぱり、セツは…綺麗だなって。
すぐ近くで伏せられた目に、俺は秘かに邪な想いを抱く。
(こんなこと、あるんだな…)
全く興味なかった感情だけど、今は違う。
もっと知りたい、もっと触れたい。
切に想うほどに、欲は日増しに強くなっていく。
(セツ…)
分かってる、セツを見てれば…。
けどさ、諦めようって思えるほど。
この熱はそんな生半可なもんじゃ、ねえから…
「…どう?」
ゆっくりと、目を開き。
俺に微笑むのは、まさに女神のようで。
いとも容易く、この心を鷲掴む。
「あ、うん…ありがとな。わざわざ魔法使わせちまって…。」
つい吸い込まれそうになるのを抑え、答えるけど。
「良いんだよ。ジーナはオレを守る為に、いつも傷だらけで頑張ってくれてるから。」
どんな些細なことでも、傷付いて欲しくないからと。俺の神子は、無邪気な笑顔でそう告げるから。
「セツ、俺さっ…」
「ん?」
ダメだ、分かってる。でも、
「俺、は…」
こんなワガママ、口にしちゃいけない。
オレだけじゃなく、みんなだって…
(ルーもロロも、アシュやヴィンだって…)
みんな、同じもん抱えてる。
けどさ、目の前でこんな顔されたらさ…
「セツのこと─────」
(俺は、初めて会ったときからずっと…)
「セツ───…!」
「あっ…ルーファスが帰ってきたみたいだ!」
やっぱり、そう…だよな。
(あんなの、ズリィだろ…)
女神は俺に、いつでも優しく微笑んでくれる。けど、
(また見せ付け、られちまったな…)
あんな最上級の顔は、俺には絶対に見せてくれやしない。
あんな、まるで恋する乙女…みたいな顔は。
(敵わねぇじゃんか…なんも。)
最大の好敵手 は、
俺が欲しいもんを全部持っている。
騎士としての実力も、
男として惚れ込むような体躯も…
セツの心さえも。
(なのに気付かねんだもんなぁ…スッゲェあからさまなのに。)
俺に向ける表情の何よりも。
目の前のセツは、色めいて眩しいのに。
灯台下暗し…って、まさにこういうことなんだろか?
(勿体ねえよなぁ。俺なら速攻で落としに行くけどなぁ…)
まあ、それは夢のまた夢だけど。
「おい、ルー聞いてくれよ!セツのダンスがヒドくってさぁ~…」
「なっ…仕方ないだろ~素人なんだからさぁ!」
邪魔するつもりなんてない。
俺が望む先には必ず、セツの笑顔が大前提だからな。
だからって、今ここで「実はお前らは───…」なんて野暮なことは、言ってやんねぇけど。
「セツがダンス中にセクハラすっから、練習にならねぇし…」
「セク…───ど、どういうことなんだセツ?」
「ちが、あれはスキンシップっていうか…もうっ、誤解招くような言い方するなよ、ジーナ~!」
叶わないって解っていても、気持ちはどんどん膨らんでいく。
些細なことで、もしかしたら…なんて。
淡い期待なんざ、それこそ虚しいだけなんだけど。
(想うだけなら…)
どうせ捨てられねぇんなら、開き直って大事に仕舞っとくしかねぇじゃんか。
先のことなんて、まだ判らねぇんだし。
「それよかさ、勝負しようぜルー!今日1日、相手がいなくて持て余してたんだ。」
「ん、そうだな。私もちょうど体を動かしたいと思っていたところだ。」
コレだって、悪足掻き。
ま、実用も兼ねてっけどな!
「帰ってきたばっかなのに。元気だなあ、ふたりとも。」
苦笑しながら距離を取り、対峙するオレ達を傍観するセツ。
といっても、俺なんて殆ど見てもらえないだろうし…意識すら、されてないんだろうけど。
「今日こそは一本決めてやるかんな!」
「ならば私も手は抜けないな。」
いつかルーファスに負けないぐらいの騎士になってさ。セツに男として、少しでも意識してもらえるようになれたら─────
「うっしゃあ!いくぜルーファス!」
焔の守護騎士ジーナ、
神子のために今日もかっ飛ばして…
全力疾走といこうじゃねぇか!
…end.
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