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「やけに静かだと思えば…」 書斎に隣接する勉強部屋への扉を開け、中を覗くと。机に伏せるセツの黒髪が、規則正しいリズムを刻む。 課題として渡しておいた本は、数ページを残し開かれたまま…セツの下で、枕代わりにされていた。 この世界の誰にも、得ることの出来ない力を持つとされる神子。 しかし目の前の青年然り、歴代の神子も始めから神のように万能というわけではなく…。 別世界の住人で、赤子同然なまま召された神子を。我が国フェレスティナは寵愛し、永きに渡り守護し続けてきたのだという。 魔法も一切扱えず、右も左も解らない神子に。 この世界で生きる為の知識と教養をと、私は教育係を命ぜられた。 騎士になろうという者ならば。 最も名誉ある騎士の階級、″守護騎士″を目指すのは当然のことだろう。 かくいう私も、それを当たり前だと信じて疑わなかった口だし。 故に、陛下から騎士としてではなく。神子の教育係として指名された時は… 少なからず、悔しさのようなものを抱いたものだ。 「神子、か…」 神子が世に現れるのは、疎らではあるが数百年に一度。その存在を知る術は、先人が残した記述でしかない。 それでも、あらゆる記録を調べ理解していたつもりでいたが… 目の前で眠る、漆黒の髪の青年。 神子が男子という、異例の事態もありはしたが…。 セツが神子であることは、守護騎士に選ばれなかった私でも…充分確信が持てていた。 単純に黒髪だから、ということではなく。 それはきっと私にも。 守護騎士の素養とやらが…少なからず、あったからなのだろう。 まるで赤子のように、健やかに眠るセツ。 黒髪だという以外は、ごく普通の人間にしか見えない。 身体能力で言えば、子どもにすら敵わないし。 彼が元いた世界の治安が、比較的良かった所為か…注意力も随分と散漫で。 警戒心で言えば無いに等しい。 それが悪いとは思わないが…こうも隙だらけだと。 例えばルーファスが言うように、守ってやりたい…と。 なんとも珍しく、むず痒い感情を。 私みたいな人間にさえ、容易く抱かせてしまえるのだから。 セツの魅力は、容姿だけの話では計り知れないものなのだな、と…無意識ながら感じた。 (本当に、無防備なものですね…) つい衝動的に触れてしまった黒髪は、さらさらと指をすり抜けて。セツは一瞬肩を揺らすも、起きる気配はない。 暫くその寝顔を、ぼんやりと見つめる。 神子だから、なのだろうか? 私としては想定外の事だったが…。 を誤魔化したり、理解出来ない年齢でもないので。 己が彼に対し、皆と同じような感情を抱いていることくらいは…既に自覚していた。 ただ、それが自らの意思なのか。 はたまた神子の持つ、特殊な力によるものなのか。 幾ら考えた所で、答えが見つかるわけでもなかったが…。そういった葛藤があるのもまた、事実だった。

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