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プロローグ 1
僕は私生児だ。
生まれてしばらくは、結婚もしてない両親がいて、父は一緒に生活していたらしいが、僕にその記憶はない。
現在その名ばかりの父親は自分が生まれ育った他の国で生活をしているが、母の元へ送金はしても姿を見せることはなかった。いわゆる『できちゃった婚』で、事実婚と言うだけで、入籍すらしていなかった両親だったが、学生のうちに僕が産まれてしまい、ずっとこのまま幸せが続くと信じていた。もう一人くらい家族が欲しいね、と笑いあいながら生活をしていたはずだった。
両親揃って、他国からの留学生だった2人だったが、僕が産まれた時に、母は、僕と一緒にアメリカ国籍を取得していたが、父は取得をしていなかった。出来なかった。
大学を卒業して、学生ビザが切れる関係で、父は母に「必ず、戻ってくる。その時に入籍しよう」と言って泣く泣く帰国したのだというが、戻ってくるどころか、父の代理人を名乗る男が母の元に訪れて、
「子供だけは引き取りたいが、結婚は出来なくなった」
と母に告げた。
もちろん、母は納得できるわけもなく、父と話をさせろ、と代理人に詰め寄るが、自分が代理で来ているのだから、と、取り次ごうとはしなかった。
けれども、話は平行線をたどり、結局、代理人は父、萩ノ宮昂一に電話をつなぐことになる。
母に待っていたのは、父本人からの完全な別れだった。日本に戻り、好きな人が出来たことが最大の理由だった。
しかも、相手は男だという。激昂した母は、慰謝料と養育費を払え、と告げ、完全に息子を手放すことを拒否をした。親権は父親、養育権は母親ということで、話の折り合いをつけた。結局のところ、金で解決することで、母は自分を慰めることしか出来なかったのだろう。
共に、その分野では、主席で卒業したにも関わらず、母は専門分野の仕事に就くことが出来なかった。求人が少ないのと、もし、稀に出ても、小さな子供を抱えた母親を雇う余裕のある会社が、この小さな街にはなかったのだ。
父からは、毎月、定額が振り込まれていたようだが、円やドルが変動するたびに収入が変わってくるので、母は、その部分でも不安を感じていたようだった。
物心つくころには、酒を口にしている母親の姿が、日に日に増えていった。アルコール依存症になるまでそれほどの時間はかからなかった。
母はいろいろな仕事をしてきたけれど、長続きせず結局、夜の仕事に落ち着いてしまった。最初は飲み屋で接客をしていたようだが、段々と、店の客と関係を持つことによって客を取るようになり、最終的には売春婦になっていた。
『アルコール依存症』に『セックス依存症』とどんどんと心が病んでいっていた。
まだ、幼かった僕は、どうすることも出来ないまま、何年もの歳月が流れ、気がついた時には8歳になっていた。
その頃から、母は食事を作らなくなった。
「これで、何かを買って食べなさい」
と、一食分の小銭をダイニングテーブルの上に置手紙と一緒に置いていた。そして、朝、昼、は眠り、夜な夜な出かけていく。朝、起きるとパンが置いてあり、冷蔵庫のミルクでそれを流し込むように食べて学校に通っていた。
母に頼み、近所の友達の親の車で、週に一度スーパーへ買い物へ連れて行ってもらう為、お金を無心した。
父からの仕送りの中から、食材に必要だと思われる金額を渡された。さすがに、毎日の買い食いだけでは飽きてしまうし、簡単なものなら作れるようになりたいとも思っていた。友達の親にいろいろ聞きながら、食材を買い足していく。もらったお金ギリギリの買い物になったが、それでも週に一度の買い物としては妥当な量の買い物が出来た。
都度、近くの店で調味料を買う必要が最初のうちはあったが、段々と慣れていった。
タッパに作り置きを作り、毎日、毎日、その繰り返しをしていく。作りたては自分で食べて、作り置きは、母が電子レンジで温めて食べる、という状態になっていった。
けれど、夜に親が不在で、帰って来たとしても、男連れで帰ってくる。
近くにある連れ込み宿が満室だと、こういったことが最初のうちにこそたまにあった。
そういう時は、母が事に及んでる声に耳を塞ぎたくなるような乱れた声を上げる。肌のぶつかる音と、それにあわせたような悲鳴のような声に、最初こそ恐怖を感じたけれど、家に客を連れてくる回数が増えていくと、段々とそこに自分がいていいのか、という疑問が浮かんでくる。というのも、トイレにでてきた男と遭遇することもあり、その度に嫌な顔をされる。
どうせ、いるか、いないか、なんて確認などしない。
夜の街をうろついていたって、誰も気にしない。
10歳の僕は、夜の街へ繰り出し、5~6歳年上の夜遊び仲間と仲良くなった。
それからは、一度捕まるまで、酔って寝てるサラリーマンの財布からお金を抜き取ったり、スリをしてみたり、万引きをしたり、年上組は、ナンパをしたり、夜中に一人で歩いてる女性を強引に物陰に隠して輪姦したりしていたが、そういったときは見張り役として、少し離れた場所で、見て見ぬふりをして立ち尽くしていた。
相手がその後どうなったのかさえ知らない。
そういう意味では、見て見ぬふりとはいえ、殺人以外の悪いことは大半はやってきたかもしれない。
ただし、ドラッグやマリファナ、タバコの臭いは嫌いだった。合法だろうが違法だろうが、やってるやつを見てれば、みっともないことだけは分かる。親を見ていたせいもあり、中毒になるようなものは嫌いだった。
そういった時も、見張り役を遠く離れてしていた。最年少だったのを理由に、そういったことからは見逃してもらえていた。ただ、気持ちよさげにラリったりしてる連中をみても、みっともない、と思うだけだった。それ以外の感情が湧いてくることは全くなかった。
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