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学祭

初めて逢った父の印象は人形のような人だと思った。 整った顔立ちは精悍で男らしい。が、寡黙で、たまにポツポツとぶっきらぼうに話す。 完全な仕事モードに入れば違うのかもしれないが、36歳という年齢の割りに落ち着いているのではないだろうか?と思う。 中学で英語を教えているとのことだったが、もし、教師としてもその対応なのだとしたら、そんなぶっきらぼうで大丈夫なのか?とこっちが心配してしまうほどだった。 母とこの人が、どういった経緯で意気投合して、自分が産まれたのか、ということが一番理解に苦しむところだった。 古い写真には、母と小さかった僕と一緒に笑っている写真は確かにあった。 たぶん、僕がいる所為もあるのかもしれないが、完全に仕事モードに入っている様子で、遊びに行く、という僕の目的と、二人の空気はまったくの別物になっている。 淡々と語る英語は、僕に気を使ってのことなのだろうが、マシマとの会話まで英語にする必要はないのではないだろうか?と妙な不自然さを感じてならなかった。 通常であれば、この二人は日本語で会話をしているはずだ。気の使い方を間違えているんじゃないか、と思うが、口には出さない。 僕には全く関係ない話をしているのに、英語で話すという行為が、仲間外れにしない、との気遣いなのだろう。 ーーこれでは、何の為に遊びに行くのか、わかったもんじゃない。 以前、お願いをした学祭は、マシマと父親と、希望した学祭を回ることになったのだ。 父は、学園祭を楽しむ、というよりは、学長への挨拶がメインのようだった。 招かれた学祭のステージの来賓として座ることになった父はそちらに向かい、僕は好きなところを回る代わりに、マシマがついてくる、という、オマケがついていた。 本来なら、父の秘書なのだから、父の傍にいるのが筋だと思うのだが、どうも、二人は心配性なようだった。 僕自身、確かに日本語に不慣れな所為もあるのだろうが、この学校(インターナショナルユニバーシティ)を選んだ通り、どこを回っても言葉で困ることはなかった。 ここの生徒の全員、英語に不慣れな人間はいないのだ。英語が出来なければ、この学校では授業を受けることが困難で、校内は日本語禁止の英語のみの学校になっている。 逆にネイティブな発音の人が多く、聞いてみると大概が帰国子女だと言う。 この環境の方が、自分にはありがたいと思うのだが、祖父の言葉や、父の態度やマシマの言葉を聞く限り、ここへの入学は、許してもらえそうには無かった。特にクリスチャンではないので、拘るのは、言葉の壁の問題だけなのだ。 『貴方には、萩ノ宮で学んでいただくことがたくさんあるのです。昂一様の後を継ぐ義務があるのですから』 父の話をする時だけ、マシマが少し嬉しそうな表情をする。 まさか、それが特別な好意だということに気付くことは、その時はなかったけれど。 トイレに寄りたい、と一度マシマと離れて、待ち合わせ場所を決めて、トイレに向かった。 トイレから戻ると、マシマは知らない男性と話していた。驚くほど綺麗な女性的な顔をした美人と称するのが相応しいと思えるくらいの美形。マシマよりは少し若いように思う。 日本語で話していたから、何を話しているのかは、理解することが出来なかったけれど、微笑むマシマを見るのは初めてで、物凄く驚いた。 思わず、あんたでも笑うのか、と言ってしまうほど。口調からして、あまりイイ話をしていたわけではなさそうだったが、二人は最後に笑顔で別れた。 そんな風に話せる相手なんて、僕にはいなかったから、少し羨ましいと思ってしまう。 『彼は…ショウ・タカミヤといって、優秀な医師なんですよ。なにかの際には頼るといいかもしれませんね…』 マシマはそう言って微笑んだ。 ※Melagsとヒカリのカケラの翔くんです。ここの会話のシーンはMelagsの番外編にあります。

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