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萩ノ宮 自習
真嶋恵理子や、中村聡美がいる3年J組のその日の授業に、英語は存在していないのに、午後の授業に顔を出した植田に、
「なに?」 「どうした?」 「教室間違えてるよ?」などの声があがる。
「教室は、間違えてないぞ。この時間は自習になったから、各自、好きな教科をやってくれ。受験に必要な科目であれば、どの教科でも、質問は受け付ける。
が、通常受験教科以外は、範囲外とみなす。
美大希望者のお絵描きも禁止。デッサン振られてもそれはオレにはわからん。漢字の書き方とか意味とか九九とか小学生みたいな質問をしてきたやつには即座に英単語テストしてやるからな?5教科のみ質問は受け付ける」
「先生が英語以外も見てくれんの?」
1人の生徒が茶化すように言うと
「おう!!オレは基本、理系だ。」
その言葉に戸惑うのは、真嶋恵理子だ。
――ピアノで、あの腕があるというのに、更に理系?!
本当に、何者なのだろう!?
「先生ー!!これについて、説明して欲しいんだけど…… 」
一人の男子生徒が、植田に突きつけたのは、微粒子工学の理論だった。嫌がらせでもっていったそれに、スラスラと答える姿を見て、生徒達が感嘆の息を漏らす。
「……ということだけど、理解出来たか?」
「……正直、難しかったです。」
「だろうな。しかも、受験には関係ないだろ。まぁ、覚えておいて損はないだろうけどな。試そうとしたんだろうが、残念ながらそれはオレの専門分野だ。」
「覚えておいて損はない」はこの教師の口癖なのだろう、と恵理子は思った。受験生にとっては確かに覚えられることが多いのに越したことはないだろうが、全ての人間の記憶力がこの教師並みなら、受験対策クラスで教わることも少ないだろう。
微粒子工学が専門分野というこの教師は何故、英語の教師をしてるのかがなおさらに謎だった。
その後、五教科すべての質問を、スラスラとこなし、下手な各教科専門教師よりも、教え方が上手い、と、クラス中が「今後もよろしく!」と調子づいていると、
「ばーか、今日だけだ」
と、苦笑いをしながら逃げた。その姿が妙に幼く見えたのは気の所為だろうか?
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