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萩ノ宮 30

「……イヤです。せめて、この曲のタイトルと、ギターのクリスさんが、今は何をしているのか、それだけでも、教えてください……」 震える声でそういう聡美の言葉を流すことが出来なく、ため息混じりにタイトルを告げる。 「Lily of the sadness 」 タイトルを言い、1度言葉を区切ってから 「なんでオレがギターのやつの消息を知ってると思ってんの?メンバーの消息なんて知るわけないだろ。」 「タイトル、ありがとうございます。でも、なんで曲のタイトルは知ってるんですか?」 嫌なことに気がついたことに隠しもせず舌打ちをする。 「……元々はオレが作った曲だからだよ……」 「曲を提供してたってことですか?」 舌打ちを聞いてもなお、食いついてくるこの生徒が不思議だった。 「……提供はしてない……けど、ギターのヤツは歌う声には向いてない。でも、ボーカルもこの曲を歌うのを嫌がった。それだけの話だ。」 「クリスさんは気に入ったからあの日、演奏して歌ったんですよね?だとしたら、先生との接点があってもおかしくなくないですか?」 どこまでも嫌な質問をしてくる。第一、オールナイトのイベントで、あの日がラストライブだったバンドのことをほじくり返されても、答えたいとは思わない。 「……第一、なんでメンバーの名前知ってんの?あのバンドはあの日解散しただろ。その後の消息を知ってどうすんの?」 レナとロニーのことは、有名な話ではあるものの、触れないで欲しいとの懇願でもあったのだろう。 「ネットで調べたら出てきました。だから名前を知ることが出来ました。レナさんが有名になってくれたおかげだと思ってます。でもその後はいくら調べても出てくることがなくて……だから、先生なら知ってると思ったんです」 「……スタジオミュージシャンでもしてるんじゃね?Liera(ライラ)のアルバムの演奏者見れば名前がある。ツアーには参加してないけどな……他のやつは知らねぇ」 素の自分になってることにも気づかず吐き捨てるように言ってしまう。 「やっぱり先生は知ってた!!ありがとうございます!!調べてもわからなかったので、嬉しいです!!」 本当に嬉しそうに笑う。 「何がそんなに良かったわけ?」 「やっぱり曲ですね。あの切ないメロディがすごく好きです。クリスさんの見た目も素敵でしたけど。紫色の眸って珍しいし、照明で綺麗な金髪も眸もすごく輝いてました。 あんな曲を作れる先生もすごいけど、それを演奏してる姿も綺麗で、ずっと脳裏に焼き付いていて……本当に好きなんです。一目惚れみたいな感じですかね。憧れの存在です。」 「…………」 返す言葉を失ってしまった。1度見ただけの姿を追い求めて縋り付くように聞いてくる。 そんな風に追われたことはないし、求められたことも、たぶんない。何年も前の話だ。 ティティーの時だって要求されることはあっても求められたことはない。彼女は彼女が育てた武器を使っていただけのことだ。 「今、先生と話せて良かったです。クリスさんのお話、ありがとうございました」 ペコリと頭を下げて、泣きそうな顔で微笑みながら聡美は、 「では、失礼します。さようなら。」 音楽室を後にした。 この時から、昂輝の興味は、中村聡美で満たされていくことになる。

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