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萩ノ宮 32
聡美が第二音楽室にたどり着いた時、待っていたのは、見慣れた植田昂輝ではなかった。
暗い場所ではオレンジがかった柔らかい金髪に、紫色の眸は、柔らかい色で、つい見蕩れてしまう。入口で呆然と立ち尽くす聡美を見てフッと微笑んだ。服装こそスーツ姿だけど……
夢にまで見た、beat noise のギターのクリスが、ライブで見た、あの時のままの姿で、目の前で微笑んでいた。
「……クリスさん……!!」
なんのサプライズだろう?どうしたらいいのか、わからないままオロオロしている聡美を見て、目の前の男は、吹き出して笑う。
「あはは!!いいね、その反応。」
その声は植田昂輝、そのものだった。
「え?!先生?!え?!えぇ!?」
昂輝は、聡美の前に跪き、手を取る。
「『beat noise』の話をしてから、君のことが気になって気付いたら好きになってた。良ければ、付き合ってくれないだろうか?」
「え?!はい。
…えっ?えぇ!?」
「改めまして、クリストハルト・昂輝・萩ノ宮・シュミット。これがオレの本当のフルネーム。だからみんな略してクリスと呼んでた。」
ニッコリ微笑みながらそう語るクリスに聡美は呆然と見入ってしまっていた。
目の前の状況が全く掴めない様子に、立てかけておいたアコギを手に、彼女の好きな曲を唄う。
やっぱり、自分の声は歌に向いてない……とつぶやくクリスに聡美は「それでもこの曲が好き」という。
ようやく冷静さを取り戻してくれたのか、眸を、潤ませて、聴き入っていた。
唄い終わると、拍手をしながら涙を流した。
「私は先生に、ずっと憧れていました。だから、クリスさんと同一人物だったことは、ものすごく嬉しいですし、植田先生、という人も、すごく好きです。」
その日、昂輝は、聡美を抱いた。
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