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第1話
いつもと何かが違う。
なにかが違うと分かっていても、決定的に何が違うかは分からなかった。
類も司も昨日までと何も変わらないように見える。それでも違うと感じてしまう『何か』。
類は隠すのが上手いから、触れて良いものなのか時折迷う。
「あの、類――」
「類くんと司くんは喧嘩でもしたの?」
まごつき出遅れた寧々の代わりにえむが口火を切る。そんな直球で聞いても良いものだったのかと狼狽える寧々を余所に猪突猛進のえむは類の背後から背中に抱きつく。えむの突撃を諸共しない類だったが、普段ならばえむだけに関わらず誰かが類と親しく関わっていると司が物凄い顔で見てくる。――それが今日は無い。
一瞬だけぴくりと反射するように類の方へ視線を向ける司だったが、類と司は視線が絡んだ瞬間にそのまま表情ひとつ変えずにお互い顔を反らした。えむの指摘通り喧嘩をしていると考えるのが妥当かもしれなかったが、もしふたりが喧嘩をしているのだとしたらもっと反応は露骨になる筈だった。顔を反らす直前に見せた妙な間、今まで見た事の無いふたりの距離感に心がざわついた。
「ねえ司」
類はえむからの追及から逃れる事に必死そうだったので、暇を持て余してそうな司に聞く事にした。いつもならば用が無くても類の近くに居るはずの司が今日に限っては物理的にも距離がある。
「おお寧々、どうし――」
「類と何かあったんでしょ?」
司が言い終わるより先に距離を詰める。普段はこの位の距離で類と会話をしている癖に。
疑惑を核心に近付けたのは類の名前を出した瞬間の司の表情。取り繕っているつもりかもしれなかったが司は演技をしていない素の状態では分かりやすく、寧々の女の勘がより確証へと近付けた。
「何って、俺と類は別に――」
「司くん」
司の言葉を遮る類の声。丸めた台本を片手に類が普段通りの笑顔を浮かべながら近付いてくる。えむはというと類に追及をかわされてしまったらしく、煮え切らない様子で類の背中を見詰めていた。
「次の演出の件なのだけれど、確認させて貰って良いかな?」
「ああ、構わないぞ。ここでか?」
普段通りのやりとり。そこに本来なら違和感など生まれないはずだったが、類は寧々の隣を通り過ぎる際に小さな声で囁いた。
――――別れたんだ。
類の声は通り過ぎると同時に突風によって掻き消された。
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