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第4話

「……つ、司くんのした事は今でもやっぱり許せない、けど……」  えむのハンカチがぽとりと床に落ちる。頭を下げ続ける司へ少しずつ歩み寄った類はその肩にそっと手を置く。 「…………僕は、司くんが望むような『別れたくない』って泣いて縋るような真似はとてもじゃないけど出来そうにないよ。もし司くんが僕にそういうものを求めてるなら僕はそれに応える事は難しい……と、思う」  充分に落ち着いているつもりの類だったが、声を振り絞ってみればまだ震えていることが分かった。当人たちだけの問題で収めきれず年下の寧々やえむにまで迷惑をかけてしまっているこの事態はとても看過できる問題ではなく、司に対する怒りよりも女性たちに対する申し訳無さが先立っていた。  肩に置いた手で軽く揺すってみても司は一向に顔を上げない。それには類も困惑した状態で寝ている訳でもないのに何故いつまで経っても司が頭を上げないでいるのか分からないまま今度こそ本当に司から絶望的な一言が飛び出すのではないかと気が気では無かった。しかしもし自分以外の誰かを選ぶ事が司にとっての本当の幸せであるというのなら、やっぱり自分は縋って止めることなどは出来ないだろうと半ば諦めにも近い感情を抱いていた。  落ち着いたはずの涙が再び類の瞳から零れ落ちる。司の肩に置いていない手で口元を抑える類だったが、涙と共に込み上がる嗚咽は堪えきれそうにも無かった。本当は嫌だと言って縋りたい、みっともなく喚いても司を自分に繋ぎ止めていられるのならば何でも良かった。同時にそんな我儘を言える身分では無いことも一番良く分かっていた。 「……類」 「……っ、……つ、かさ……くっ……」 「全部……全て俺の我儘でお前の事を振り回してた。類の事を深く傷付けたのに、俺はお前に伝えた言葉の意味すら自分で深く理解していなかった」  肩に置いた手から力が抜ける。深く問わずとも司が何を感じてその言葉を口にしているのかは類にでも分かった。類の手がぽとりと床に落ちる。既に類の真下には涙で水溜りが出来ており、ふたりの間に割って入っていいものか悩むえむが拾ったハンカチを手にしたまま様子を伺うように遠巻きに覗き込んでいた。  下ろした類の手を司が掴む。先程よりもずっと強い力で。 「……本当に、ごめん類」  その先をどうか言わないで。終わりの言葉など二度と聞きたくないと類は司に掴まれた腕を引きながら首を左右に振る。 「……い、やだ……もう聞きたく、ないっ……!」 「俺は類が好きだ! 愛している!!」  唐突に顔を上げた司は類の泣き顔を見上げ上半身を上げると両手で類の顔を掴んで顔を近付ける。咄嗟の事で涙も止まった類は驚いて司の顔を見るだけだった。 「俺は類を傷付けた俺をこの先一生許さない。類も俺のことを許さなくて良い。だけど、だけど――」  息を吐いた寧々はそっとえむの肩を叩きステージ裏からの退室を促す。一瞬類のことを気にして振り返ったえむだったが、これ以上の心配は無さそうだと察すると寧々の後を追ってステージ裏から出ていく。 「――これからも、類の恋人は俺だけでいさせて欲しい」  驚いた顔が、唇を噛み締め何かを堪える表情に移り変わり、迷うように眉を寄せる。こんなにころころと表情を変える類を見るのはこれが初めてだった。 「…………、だけって」 「うん……?」 「……僕だけ、だって……誓ってよ」  怒りや恥ずかしさ、色々な物で顔を真っ赤にした類が今まで以上に可愛らしくて、気が付いた時には唇を重ねていた。それが司の答えで、類もそれに応じるように瞼を落とす。 「誓うぞ、類……俺の恋人は類だけだ」 「……僕の……恋人も、司くんだけ、なんだから、ね……」 「ああ分かってる、分かってるとも……」  そのまま涙が落ち着くまで司は類を抱きしめ続けた。

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