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第3話
類が振り払った手を司はぼんやりと見つめる。続いて変化した司の表情がとても屈辱的なものに見えて類の押さえ込んでいた感情は頂点に達する。
「別れようって言われた時の俺の気持ちが司くんには分からないの!? 司くんに嫌われたんだって、思った時の、僕がっ……どんな、どんな気持ちで……」
「違う、俺は……類を嫌いになったことなんて一度もないぞ。今だって――」
「じゃあなんで『別れよう』なんて僕に言ったの!?」
感情と共にぼろりと飛び出した涙が汗のように宙を舞う。一度飛び出た涙は留まる事を知らず次から次へと込み上げてしまい、類はその場に膝から崩れ落ちるとただただ袖口で涙を拭くだけだった。静観していただけの寧々とえむも流石に尋常ではない状況を察し背後から類に駆け寄る。
「類くん類くん擦ると赤くなっちゃうからね。ハイ、これで拭いて」
どうしたら良いのかも分からず肩を擦るえむは類へ可愛いアップリケのついたハンカチを差し出す。感情を露わにした類を滅多に見たことが無い寧々は背中をゆっくりと擦りながらその場へ立ち尽くしたままの司へ視線を送る。
「えーっと司、アンタが全面的に悪いんじゃないの? 類に謝りなさいよ……」
「おっ俺はもっと類の愛情を感じたいだけだったんだ!!」
「……は?」
素っ頓狂な司の言葉に思わず寧々の声のトーンが低くなる。
「司くん……そういうの一番やっちゃいけないことだと思うなぁ。類くん繊細なんだから……」
普段はおちゃらけて何も考えていなさそうなえむにさえ本気で窘められ、立つ瀬の無い司は口ごもり拳を握る。
「寧々、えむくん……ごめんね、もう大丈夫だから……」
えむから受け取ったハンカチで目から溢れる涙を拭いながらゆっくりと深呼吸をした類はやがて司に視線を向ける。自らに向けられる六つの瞳全てが自分を責めているように感じ取れた司は反論の為に口を開く。
「っ、俺だって、類に別れをあっさり受け入れられた時傷付いたんだぞ!?」
「バカじゃないの? 先に言ったのはアンタなんでしょ。言われた類の方が先に傷付いてるに決まってるでしょうが」
「そういう試す行為って相手に嫌われちゃうんだよねぇ」
口の達者な女子ふたりに司ひとりが当然勝てる訳もなく、今は味方になってくれる類もいない状態で孤立無援の司は助けを求めて類への視線を送る。
「る、類……」
「……………………司くん。僕に謝って」
静かながら怒気を孕んだ類の言葉にびくりと背筋を震わせた司は次の瞬間反射的に両手と両膝を床に付いていた。
「俺はただ……類に『別れたくない』って言って欲しかっただけなんだよ類……」
「あ や ま っ て」
「誠に申し訳ございませんでした」
司が床に擦り付けんばかりに頭を下げると類がぐすりと鼻を啜る音が聞こえた。
「……やっぱり、許せないよ」
ここで司を許して良いのか、許したところでまた同じ事が繰り返されるのだとしたらいっそのことここで本当に終わらせてしまえば――と類の頭の中で悪魔が囁く。
「許す必要ないよ類くん」
「そうよ、どう考えても悪いのは司なんだから。いっそ本当に別れちゃえば?」
「それはっ……」
寧々の無情な言葉に類は顔を向ける。するとそこには穏やかな幼馴染の顔があった。
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