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失礼なお出迎え
仕事の打ち合わせと聞いていたから、まさかこんな自分と同世代くらいの男に出迎えられるなんて思っていなかった。
めちゃくちゃリアクションに困るんだけど、まさかこの美形が責任者なわけ?
男は片眉を吊り上げて不愉快そうに俺を見下ろしている。だけど、しばらくするとその表情を不思議そうなものに変えた。
「つーか、おまえ…誰?」
頭の上から爪先まで舐めるように俺を観察したかと思えば、あまりにもふてぶてしい物言いにカッチーンときた。
こいつ、顔はいいとしても態度が悪すぎやしないか……。
まじでありえないんだけど……。
「おまえに「おまえ」なんて呼ばれる筋合いないんだけどっ おまえこそ誰なんだよ! おまえがここに来いって言ったんじゃないのかよ!」
「はぁ? おまえこそ人のこと「おまえ」とか連呼してんだろうが。つか、こっちはおまえなんか知らねえし。何? 用件は? 新手の嫌がらせかよ」
「い、嫌がらせ…って、なんで俺がっ」
初対面でこれは失礼にも程がある。
こんなふざけた奴、今すぐ父さんに電話してクビにでもしてやろうか……。
なんとか怒りを抑えてはいるものの、握った拳はプルプルと震えている。
状況を消化できないまま唇を噛んでいたら、そいつの背後から別の男の声が聞こえた。
「おい、碧 史 うるさいぞ」
つかつかと近づく足音と共に扉の奥から姿を現したのは、最初に現れた態度の悪い男よりも少し大人びた雰囲気の男だ。
サラサラとした黒髪に、銀色の細いフレームのメガネをかけている。
やや細めの目とスッと通った鼻筋。
整ったフェイスラインは関心するほど綺麗で目を見張る。
いうならば、知的なイケメンってやつだろうか。
背は最初に現れた態度の悪い男よりも、さらに少し高い。
見た目からしてかなり高スペックな男が二人並ぶと、自分が今どこで何をしているのかわからなくなるほどのインパクトだった。
本当にこの店で合っているのか疑わしくなってきて外観を見るも、たしかにルナの看板が垂れ下がっている。
まじか……。
「いったい何を揉めているのか知らないけど、周りに聞こえるからいい加減にしろよ。店の評判ガタ落ちしたら責任取れるのか?」
「けど、貢 …こいつ、不審者だぜ?」
おい、誰が不審者だよっ
後ろの眼鏡に妙なことを吹き込むその態度が悪い男を、俺は無言で睨みつけた。
最初に現れた奴が、碧史で。
後から現れた奴が、貢らしい。
お互いをそう呼び合っていたなと二人を交互に眺めてから、俺は態度の悪い碧史の方をバッサリと切り捨てて、まともに話ができそうな貢の方に声をかけた。
「あんたがここの責任者?」
「え? いや、違うけど──…」
そう答える途中で、ハッと何かに思い当たったように貢が言葉を切る。
「…もしかして、君が新条 さんの言ってた人?」
「新条? 名前なんて知らないけど、その人がここの責任者ってこと?」
「ああ、うちのマネージャーだよ」
「じゃあ、そうなんじゃないの? 俺はその人からこの時間に来るように言われてるんだけど」
ありのまま状況を伝えた途端、二人が微妙な表情で顔を見合わせていた。
口元に手を当てて「まじかよ」と漏らす碧史の隣で、貢は面倒くさそうに頭を掻いている。
感じが悪い。
そう思えてならない空気に、俺も二人を怪訝に見た。
こうして朝早く家を出てわざわざ働きに来てあげている俺が、どうしてこんな洗礼を受けなきゃならないんだ?
「とにかく、早くそのマネージャーってのに会わせてくれよ」
どうやらこの二人は関係がないようだし、ここでこれ以上話をしていても時間の無駄だ。
すぐにその状況を理解した様子の貢がちょっと後ろに下がって中へ入るように促してくれた。
「じゃあ来て、…こっち」
貢って奴は話が早かった。
さっさと歩き出した貢の後に碧史が続いたのを見て、俺も小走りで二人に着いて行った。
中は人が二人すれ違えるくらいの狭い通路になっていて、少し進むと路が左右に別れた。
貢は迷わず右側に進み、碧史は「戻ってるわ」と告げてから左側に消えていく。
さっきいきなり怒鳴り散らしたことを謝りもしないどころか、もう俺のことなんか忘れたかのようにさっさと去っていく碧史の後ろ姿が勘に触る。
ムカムカしながら右側へ進むと、貢は『ロッカールーム』『休憩室』とプレートのかかったドアを素通りして、一番奥にあるドアの前で立ち止まった。
かかっていたそのプレートには『マネージャールーム』と書かれてある。
貢は、すぐにそのドアをノックした。
「新条さん、成瀬 です」
目の前のドア越しにそう名乗っていたのを聞いて、貢のフルネームが成瀬貢だってことがわかった。
てか、今さらだけど貢の服装ってコック服ってやつだよな……。
さっきの碧史って奴もそうだ。
よく考えたら店の責任者がいくらなんでもあんなに若いわけがないし、服装からしても二人は厨房のスタッフなんじゃないか……。
パティスリーだから、パティシエってやつなのかも。
ちょっと考えたら分かりそうなものなのに、さっきは怒りのあまり気が動転していた。
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