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第13話(完結)

「おっはよーうっす!」  翌日、いったんお互い帰宅して、時間をずらしてから出勤した。  僕は疲れ果てているが、春川くんは変わらず元気。怖いくらいに。  人間の体力気力とは二十代半ば程度で右肩下がりなんじゃなかったか……ああいや、春川くんは今でも社会人チームでたまにバスケをしている。  それを先に思い出していたら! 今度は求められても彼が疲労困憊の時がチャンスだ! ……いや、スポーツ選手は試合前に禁欲をしていたり、男性ホルモンの分泌が多いと聞く。逆効果かもしれない。 「春川先輩なんか今朝はいつも以上に暑苦し……エネルギッシュですね! あそうだ、この間の合コンで収穫でもあったんですかぁ〜?」  どんなに鈍い僕でもわかるほど、明らかに機嫌が良い春川くんに、若い女子社員がからかっている。  彼女も僕に早く結婚したい、子供が欲しい、良い人はいないものかとよく泣きついてくる一人だ。 「いや、あれは全然」 「じゃあマッチングアプリとか?」 「そういうのは使わねぇ主義なんだよ」 「えぇ……じゃあ無難に友達の紹介?」 「まあ、よく考えたらずっと近くに居たのに、それに気付かなかっただけ……の幼馴染みたいな?」 「ゲッ。もしかして私だと思ってます……?」 「お前な訳ねぇだろ、イケメンの前でだけ家事も仕事も何でもできますぅ子供大好きですぅ〜っつー、推しのアイドルに散財ぶりっ子女が」 「はあぁ!? ちょっと今の発言完全に全世界の女性を馬鹿にしてますよね!? ほんと先輩は乙女心がわかってなくて嫌なんです課長〜!」 「お願いだから今日だけは皆静かにして」  あまりに疲れ切った低い声で言ってしまったもので、課内もしんと静まり返った。 ◆  乙女心がわからないような、でも前よりは確実にわかったはずである春川くんは、傍から見たら同性であり仲の良い上司と部下という関係を良いことに、ずっと大型犬みたくくっ付いて来る。  昨日の今日だからさすがにしないけれど、好きアピールにプラスして、「今度はいつにします? ホテル行く? それとも家?」とか、もうとにかく思春期男子レベルにハマってしまったのではないかというほど、仕事中も個人的に連絡が来る。  これ、間違って違う人に送ったら、それこそ大変な事態になり兼ねないよ。  いやぁ……彼がこんなに性的欲求が強いと身体が持つかどうかだけ心配だ。それこそ玩具を使ってあげるか、彼ほどじゃないけど、いい加減年齢よりは若く見えるよう鍛えた方がいいかな。  屋上でお母さんのお弁当を広げていると、普段通りに会社近くのコンビニで買ったのであろうチキンカツサンドらを取り出そうとしていた春川くんは、弁当の中身が渋すぎる故にか否か、僕の家庭事情を察した。  梅干しと胡麻のおにぎりに、昨夜の残りだと言うミニハンバーグ、ウィンナー、きんぴら、申し訳程度に乗っているめざしなど。普通なはずなんだけど。  婚活中または既婚の女子社員みたいに朝早くから作っている唐揚げや卵焼きやブロッコリーなど、開けた瞬間ワクワクするようにもっとカラフルな方が若々しいのだろうか? せめてタコさんウィンナーにした方が可愛い?  これでも僕の身体を気にしてくれて大人しくなった方ではある……それ以前に春川くんって実はパン派? 「え、課長……ずっと思ってましたけどその弁当、自分で作ってないですよね? まさか実家? ご両親……ご健在ですよね? 今も自分の部屋あります?」 「そうだよー。別に近くに住んでたら大変な思いして引っ越す義理もないからね」 「想像してましたけど子供部屋おじさんっすか……」 「? 確かに少年の心は忘れてないかも」 「いやそういうことじゃ……まあ……確かに一人暮らしイコール自立ではないのかな……他人に依存しまくってカレカノの部屋に転がり込む輩もいるだろうし……うん……別に犯罪でもないし」  何やらブツブツ呟いて考え事をしている春川くんだったが、やがて答えが出たのか僕の両手を握って冷静に言った。 「課長。俺の家に住みませんか。会社以外でももっと一緒に……ずっとずっと傍に居たいんです。同棲……ってか、結婚……ってか、そういう感じのニュアンスで」 「なるほど! 良い考えだね! なら僕の家に住んでもいいよ! 息子がもう一人増えるくらいうちの両親ももう気にしな」 「それはマジでやめてください」

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