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番外 てがみの裏側

『奈智からしっかり離れた?』 「ああ」  堀は振り返って、奈智を見つめた。  そこで待っていろと、無言で牽制する。  ベッド上で不思議そうに小首を傾げる奈智の首元は色っぽく肌蹴ている。たぶん、本人はとんと気付いてはいない。 『まぁー、奈智に言ったのは序のくちー。よーやくするとー、奈智のこと食べたい。けっこー露骨な表現あるね。閉じ込めて、自分のモノにしたい。自分だけのモノにしたい。綺麗なままにして飾っておくってのが、詩みたいになってるー。あとはー見たくも無いけど、変な液体の付いた明らかに盗撮なアングルの奈智の写真と、堀ちゃん先輩と、カワちゃんと、多聴兄ぃの会社のしゃちょーさんと、誰か解んないけど多分奈智のガッコの生徒の顔写真がマジックで黒く塗りつぶされた後、ガビョーとかクギみたいので刺した跡があるー』 「……中々あからさまだな」 『ただ、プライベートの写真だけじゃなくって、学校での盗撮けっこーあるんだよねー。半分くらいー? ……堀ちゃん先輩がどー動くかはしらないけどー、奈智の周りちょっとちゅーいしてあげてー。それだけー』 「何も言ってなかったな」 『奈智本人がー? あの子、自分への好意には鈍いし、なんらかの接触があったとしても人にゆーと思うー?』 「無いな」 『っでっしょー? 自分で解決しよーとするよー。このレベルはちょっとムリそーだけどー』 「……過保護な理由がコレか」 『理に適ってるでしょー?』 「ああ」  たぶん、自分だったとしても心配する。  だが──。 「小さい人間だな」 『ストーカーが? いまさらじゃなーい?』  男だろうが、女だろうが。 「あいつは伸び伸びしてるほうが、『らしい』」  囲いの中ではその色を失う。 『本人にゆってあげればー? オレが言いたかったのは、さっきゆったのだけー』  奈智に早めに帰っといでーって言っといてー。  そう託(ことづけ)を残して、名ばかりの後輩は電話を切った。  さて、どうしたものか。  堀が思うに今朝急遽、奈智の長兄が本人の了承なしにピアッシングをして取り付けたのは、そこから来たものだろう。あれは、タダのピアスではない。  足立多聴という人物は堀が在学中の頃から、様々な噂が飛び交っていた。それこそ素(しろ)から玄(くろ)まで。  その兄を持っている割には、中々に一般的な弟達だと思っていたが、甘かった。  とんでもない、魔性。  本人が気付いていないだけである。まぁ、自分もその魅力に掛かった一人であろうが。  それに、本人の性格も関係しているだろう。  奈智は基本的に誰にでもやさしい。性格も良いので人に好かれやすい。  物事に対しても、それほど嫌だとは言わず、解決策を模索する。押しに弱い。  自分の意思はあるが、それも照れているとして受け取られかねない。己を正当化しようとする輩には、良いように映ってしまう。そして、本人全く気にしていない、あの容姿。ほどほどに整っているが、芸能人ほど飛び抜けてではなく、一般人の中では綺麗な方。手の届く範囲かもしれない、高嶺の花。それがより一層、被ストーキング対象となるのを助長しているのであろう。  堀はベッドで不安気にしている奈智の元へとゆっくり足を運んだ。

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