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第1話
_____ 僕、花岡さんのセフレじゃなくて…愛人になりたい。 _____
相手が男の子は不倫になりますか?_________________________
「泰志さん、今日は飲み会だっけ?」
「そう。新入社員の歓迎会だよ。一次会で帰ってくるよ。」
「了解。」
結婚して3年。今年で2歳になる娘をもつ父。ただの会社員。
花岡泰志 。33歳。
妻の沙緒里 とは友人の紹介で出会った。
「恵 、パパ行ってくるね」
「恵、パパ行ってくるって。寂しいねぇ」
「ぱぱ…」
娘の恵。ママに抱っこされて、ぬいぐるみを大事そうに抱えている。
「それじゃ、いってきます」
「いってらっしゃーい!」
俺は幸せな日々を送っていた。
「課長、お疲れ様です」
「加藤!おはよう。」
「昨日の資料、目を通して頂けました?」
「あぁ。見たよ。明日の会議はこれでいこう。」
「ありがとうございます!」
「少し訂正してから、他のメンバーにもコピーしてやってくれ」
「はい!」
会社の仲間とも仲もいい。
「…おはよう、会社には慣れたか?」
「課長。おはようございます。」
「そんな固くなくていいって。」
「…すみません…」
「まだ、慣れないよな。…今日の歓迎会の話はいってると思うが。来るか?」
「はい!」
「なら良かったよ。楽しみにしてるよ」
「はい!」
新入社員も入って、より会社は和気藹々としていた。席について、一息つく。
「ふぅ…」
携帯を開くと、娘と妻の待受画面。それを見ると、気持ちが安らいで微笑んでしまう。
「今日も幸せそうだなあ」
「あっ、部長!お疲れ様です」
「…娘さんが生まれてから、調子良いな。花岡。…その調子で頼むよ」
「……は、はい…」
照れ隠しで笑った。
幸せな日々は永遠には続かなかった。
__________ 彼に出会うまでは。
「「「乾杯!」」」
最寄り駅の近く、居酒屋で新入社員の歓迎会を開いた。
今日は車を持ってきているため、酒は飲まない。
飲み会があるのを知っていて車を持ってきたのは、酒を飲まない口実を作るためなんだけど。
「よし!皆、今日は飲みましょう!」
「泰志さん、飲まないんですか?」
「あぁ、今日は車持ってきてるんだ。」
「こいつ、幸せな野郎だからな。」
「部長、からかってるんですか。」
「羨ましがっているんだよ。」
同僚から上司からもからかわれている。
今日は酒を飲まずに、一次会で帰る。そして、沙緒里と恵に会って寝るんだ。飲み会も楽しいが、家族会う方が楽しみになっている自分もいた。
一次会は11時前に終わった。居酒屋がある飲み屋街の近く、駐車場に停めていたので早速向かった。飲み屋街はこれから盛り上がる時間帯。きらきらとした街並みで、人々も楽しそうである。
「…??」
これは、人の足??倒れているのか??
路地裏のような細い道から足だけが見えた。倒れている、そうとしか考えられない。
「…」
恐る恐る覗いてみると、確かに人が倒れていた。茶髪の若い男だった。大学生くらいだろうか。
「…酔っぱらってるのか。」
ここは飲み屋街。酔っ払いがいて当然だ。なぁんだ、そんなことを思って去ろうとした。
「げほっ…がっ…」
「えっ…」
男は苦しそうな咳をしていた。
「あ、あの…だ、大丈夫ですか。」
「…げほっ…」
「…!?」
顔を覗くと、吐血していた。
「ちょ!だ、大丈夫ですか?!」
「…あ…だ、大丈夫…です…」
「大丈夫じゃないですよ、救急車を…」
「い、いらないです…。ただの風邪です。」
「いや、そんな訳。」
「少し休めば、大丈夫なんで。」
「でも…」
なんだか、どうしても放っておいてはいけないような気がした。
「立てますか?肩を貸します、」
「す、すみません…助かります…」
「…病院に行きましょう。」
「えっ、」
「何かあったら大変です。一応、念のため。」
「…そ、そんな。」
「いいから。早く、車あるので乗ってください。」
「…は、はい」
彼は腹をさすっていた。吐血するくらいなら、どれだけ腹が痛いか。彼を車に乗せ、近くの病院の救急外来へ向かった。病院も彼を優先的に検査した。ここで待っていろと言われたので、待合室で待った。
なんやかんやで11時を過ぎてしまった。
「…荒井さんの保護者様で?」
看護師に聞かれた。
「ほ、保護者?」
「はい、違いました?」
「あ、荒井さん…?」
そういえば、彼の名前を聞いていなかった。
「あ、えっと、茶髪でお若い男性の…」
「…あぁ、そうです。」
「先生に診てもらったところ、命に別状はありません。」
「そうですか、ありがとうございました。」
「…もう少し時間がかかりますが、待たれます?」
「えっと…」
帰ってもいいのか?彼を病院に勝手に連れてきて、最後までいないのは酷いかな…。
「待ちます。」
「分かりました。あちらの病室で点滴を受けておりますので、立ち会っても大丈夫ですよ。」
「あぁ、ありがとうございます。」
案内された病室に彼がいた。
「あ…!」
彼はベッドに横になり、点滴を打たれていた。
「あの…ありがとうございました。」
「いえ。大丈夫だそうで。良かったです。」
「はい。ただの胃潰瘍でした。」
「胃潰瘍で吐血するんですか。」
「ちょっと悪化してたみたいです。」
「大分、重症と思いますけど。」
「まぁ、」
彼は、えへへ というように笑った。
「奥さんとか、大丈夫なんですか。」
「えっ、」
「…指輪してるから。」
「…あぁ、ちょっと電話してきます。」
「はい。あの、もし疑われるようなことあったら僕、出ますからね。」
「そこまでしなくても大丈夫ですよ。」
病室を出て、沙緒里に電話を掛けた。
「沙緒里?今、ちょっといいかな。」
「うん、どうした?終わったの?」
「あぁ、飲み会は終わったんだけど。帰り道で血吐いて倒れてた男の人がいて、急遽、今病院にいるんだ。」
「あ…そ、そうなの?大丈夫なの?その人。」
「まぁ。ただの胃潰瘍だって言ってるけど…血吐くまで悪化してたみたい。」
「そっか。泰志さん、ヒーローだね。やっさしー」
「やめてよ、早く帰るって言ったのに。ごめんね。」
「大丈夫だよ。また、連絡して。帰り、気を付けてね」
「うん、ありがとう。」
沙緒里は優しいな、そう思った。
また彼の元へ戻った。
「大丈夫でした?」
「はい。話したら了解してくれたので。」
「…帰っても大丈夫ですよ。」
「…でも、あ、荒井さん…?は?」
「あはは、荒井は大丈夫ですよ。」
彼は笑った。
「荒井直紀 です。僕の命の恩人のお名前聞いても?」
「恩人なんてそんな…、花岡です。」
「花岡さん。ありがとうございました。」
「いえ。」
「…結婚されてどれくらいなんですか。」
「結婚して3年です。」
「わぁ、幸せ真っただ中じゃないですか。」
「今年2歳になる娘もいるんです。」
おっと、また自慢気に話してしまった。
「いいですね。パパさん。」
「いやぁ…」
「幸せオーラ全開ですよ。」
「…職場でも言われます、」
彼と他愛もない会話を楽しんでいるうちに、点滴があと少しになった。
「…花岡さん、本当にありがとうございました。」
「いえ。無事で良かったです。」
結局、最後まで荒井さんと一緒にいて、家まで送って行った。彼の家は最寄り駅から車で数十分ほどにある小さめのアパートだった。
「…荒井さん?」
「……」
寝てる?…通りで、隣で静かに座ってるなと思ってた。
起こすのも可哀想だったから、近くのコンビニに寄った。そういえば、荒井さん、何も飲まず食わずだったっぽいな。水と食べれそうな物を買った。
車に戻るっても、まだ起きそうにない。とりあえず、教えてもらったアパートに向かう。
「荒井さん、家に着きますよ。」
「……ん…」
「大丈夫ですか?」
「……ん…大丈夫です…」
まだ苦しそうだ。体調はまだ回復していない。
「…これ、さっき買いました。良かったらどうぞ。」
「え、ありがとうございます…。…すみません、何から何まで…本当に感謝してます。」
「…いえ。」
「…帰り、お気をつけて。」
「はい…」
彼は車を降りて、アパートへ入ろうとしたが、足がふらふらとしていつか転びそうだ。
「本当に大丈夫なのか?」
もう少しで転びそうな勢いで、壁に寄りかかった。
「あっ…。…もう……!」
車を停めて降り、走って彼を支えに行った。
「あれ、花岡さん。…だ、大丈夫ですから。」
「大丈夫じゃないですよ。…一人暮らしですか?」
「はい…。」
「はぁ、部屋は?」
「2階です。」
「分かりました。」
「…すみません…」
結局、彼を部屋まで連れて来た。
「…助かりました…。」
彼の部屋は散らかっていた。
「すいません…汚くて。生活習慣乱れまくってて……」
「そうなんですね。」
一先ずソファに座らせた。
「…何か、食べますか?」
「いえ、大丈夫です。食欲無くて。」
「だめですよ、今日、何か食べました?」
「朝にちょっと。」
「…それじゃもっと体調崩すんじゃないですか?せめて、何か食べやすいものだけでも。」
「大丈夫です。もう深夜ですよ。早く奥さんのとこに帰ってあげてください。娘さんもいるんでしょう?」
「まぁ…」
彼は微笑んだ。顔色は悪いけど。携帯の時計を見ると、もう深夜0時を過ぎていた。
「……。」
「花岡さん、帰った方がいいかと。」
「…荒井さん、大丈夫ですか?」
「はい。お陰様で。」
「……そうですか。」
そういや、居酒屋出てからトイレ行ってないわ…。
「あ……あの……」
「?」
「御手洗い借りていいですか…」
「あははっ、どうぞ。すぐそこの扉です。」
「すみません…。」
我慢出来なくて、ソファの前に置いてあるテーブルに、携帯を置いてしまった。
俺の携帯をじっと見ていた荒井さん、
俺は知らなかった。
_____________
それから数日経ってから気付いた。
俺の携帯に、いつの間にか 荒井直紀 の名前が付いた連絡先が登録されていた。
携帯はパスワードを設定しているのに。
……パスワードを知られた?いつの間に開けたのか?
まぁ、これから荒井さんに関わることは無いだろう、そう思っていた。
ある日、会社の昼休みに荒井さんから電話が掛かってきた。
「……荒井さんから…?」
とりあえず出てみた。
「……はい…。」
「花岡さんですか、荒井です。覚えてます?」
「まぁ、覚えますけど……」
「すみません、勝手に登録しちゃって。」
「パスワードまで知られたんですか。」
「偶然、見えたもので……すみません…」
「普通に聞いてくれれば教えたのに。」
「…断られそうな気がしたんです。」
「そんな、まさか。……で、どうしたんですか」
「今度、会えませんか。」
「え?」
「お礼をしたくって。」
荒井さんは元気そうだったので、少し安心した。
「お礼なんか、要らないですよ。」
「お願いします、お礼させてください。」
「…いつなら都合が良いですか。」
「いつでも。」
「……じゃあ……仕事が終わったら。」
「分かりました、じゃあまた連絡しますね」
「はい。また後で。」
お礼させてほしいなんて。大学生にしてはしっかりしてるな、と思った。なんだか、ヒーローになった気分だった。名乗るほどの者じゃありません、みたいなやつ。鼻で笑ってしまった。
沙緒里に連絡して、了解を得た。
『今日仕事終わった後に、この前助けた人に会ってくる』
『なんかあったの?』
『お礼したいとかなんとか。』
『わ、素直にお礼されてきなよ』
『どういうこと笑』
『そんなに遅くならない?』
『うん、すぐ帰るよ。』
『りょーかい』
____________________________
定時で会社を出て、最寄りの駅で待ち合わせた。彼はまだ来ていないみたいだ。
「花岡さん!!」
「荒井さん。」
少し遠くから荒井さんが手を振って駆け寄ってきた。
「はぁっ…!!すみません。早く来すぎて寄り道したら遅れちゃいました。」
「大丈夫ですよ。」
荒井さんはえへへと笑った。
「すみません、お忙しいのに。」
「いえ。なんか、わざわざありがとうございます。」
「お礼したいのはこっちですよ。そうだ、良かったらこれを。」
「あ、これ、」
「そうです、新しく出来たケーキ屋さんのお菓子です。アレルギーとかありませんか」
「ありません。これ、俺の妻も気になってた所だったんです。喜びます。」
「よかった!皆さんで是非。」
「ありがとうございます。」
「こちらこそ。花岡さんは命の恩人ですから」
「そんな。」
ふと目線を下に向けると、荒井さんはレンタルビデオの袋を下げていた。
「何か借りてきたんですか。」
「あ、あぁ、これですか?そこのレンタルビデオ店、DVDとかも売ってるんで、中古のDVD買ってきたんですよ…」
「へぇ。映画とか…ですか?」
「はい、海外の映画なんですけど…知ってますかね?マイナーなやつだし、サブスクにも中々なくて。」
俺も映画が好きだから、興味を持った。荒井さんが見せてくれたのは、前にちょうど俺が気になっていた映画だった。驚いて、思わず反応してしまった。
「あっっ!これ!!知ってます!!」
「えっえっえっ!!本当ですか!?嬉しい!!初めて会いました!これ知ってる人!!」
荒井さんと喜び合った。気が合うかもしれない。
「これ、俺も見たかったんですよ。中々売ってるの見たこと無くて。」
「そうですよね。僕もやっと見つけたんですよ!!」
「見たら感想教えてください!」
「え、よかったら一緒に見ませんか。都合が良い時なら、いつでもいいので。」
「いいんですか。」
「もちろんですよ。」
急に荒井さんに対して親近感が湧いた。思ったより映画ヲタクかもしれない。この監督の作品を選ぶならきっとセンスがいいんだな。他のおすすめ映画とかも聞いてみたい。
「それなら、また後で連絡してください。僕、予定合わせるので。」
「でも、忙しいんじゃないですか。」
「大丈夫ですよ、シフト変わってもらうかなんかするんで。」
「バイト、ですか。」
「まぁ…はい」
「そうなんですね。講義とかは…?」
俺がそう聞くと、荒井さんはきょとんとした。
「…あ、僕…24です。今はフリーターやってます。」
「あ!えっ!そうだったんですね。すみません、若いのでてっきり大学生かと」
「あぁいや、全然。まぁ、そう思うのも無理はないですよね。」
「すみません…」
へぇ、大学生じゃなかった。
荒井さんは24歳のフリーターで、今は飲食店で働いているらしい。大学卒業後、就職先が中々決まらなくて、正社員は諦め半分のままバイトしていたら、結局ずるずると引きずる形になってしまった、という話を後に聞いた。
「じゃあ、また連絡してください。」
「はい、ありがとうございました。」
「こちらこそ。それじゃ、失礼します」
後日、荒井さんと
また会うことになった。
ずっと気になっていた映画が見れるので、俺はとても楽しみにしていた。
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