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第4話

 そうして半年が経過した頃、この日も珍しく早く帰宅した父上が、僕を見た。こういう時、嫌な予感しかしない。父が早く帰ってきて僕の部屋にくる場合、八割の確率で、王宮に来ないかという話だからだ。 「フェルナ。もうじき王宮主催の貴族の子供達の会があるのだが」 「そうですか。王宮……怖い……うえーん」  僕のウソ泣きもだんだん適当になってきた。だが、僕が俯いて両手で顔を覆って声を上げると、これまで父は許してくれた。 「……フェルナ。ウソ泣きはやめなさい」 「!」  しかしこの日は、つっこまれた。僕はぽかんとしたが、ちらっと父上を見てから、頷いた。仕方がない。今日は一段と適当な演技だったからな……。 「陛下直々のお願いだそうでな。フェルナが元気になった姿を、陛下も見たいから、ぜひ王宮に来てほしいそうだ」 「子供達の会なのに、陛下も参加なさるのですか?」 「……屁理屈を言わないように」 「……はい」 「実際、心を痛めておられるのは、分かってはいるだろうが、ジャックロフト殿下だ。王太子殿下は、お前が怯えているという噂を鵜呑みになさっていて、己のせいだと非常に悔いておられる」 「へ、へぇ……」 「元気な姿を見せて、安心させて差し上げろ」 「……はい」  父上が真面目な顔をしていたので、僕は断る事が出来なかった。  こうして翌日、僕は父上に連れられて、久しぶりに王宮へと足を運んだ。  既に冬が近い。大広間には、同年代の貴族令息や子女がいる。 「っ……あ」  その時声がしたのでそちらを見ると、ジャック様が目を見開いて僕を見ていた。どんどんその頬が紅潮していき、目には涙がたまっていく。泣く兆候を感じたが、今日に限っては、僕はまだ何も言ってないんだけどな? 失言をしないように発言自体をしていない。だが挨拶しなければならない相手の筆頭なので、僕は内心の溜息を押し殺し、そちらへと一歩踏み出した。すると――ジャック様が一歩あとずさり、より涙ぐんだ。こうして僕が近づき、ジャック様が後ろに下がっていき、ついに壁際に到達した。僕はちらっと全身を観察し、まだ僕のほうが背が高いことに気をよくした。 「ご無沙汰しております、ジャック様。まだ背が伸びないんですね!」  ……僕の口は饒舌であるが、非常に無能だった。 「なっ、っく……フェルナのバカ!」

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