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第5話
「悪口のレパートリーも増えていないらしいようで、安心しました。その間に、僕なんて、外国語を3カ国語も習い始めたんですよ」
「な、な、なんだと!? 人がせっかく心配して……心配……よかった……元気そうで……」
と、威勢がよかったジャック様であるが、どんどん小声になっていったので、僕は聞いていなかった。挨拶はもういいだろうと考えることに必死だった。
「では、僕はこれにて」
「え!? もう帰るのか!?」
「はい。王宮は怖いので……」
「そ、そうか……い、いや! 待ってくれ! 俺はお前を守れるように、剣の稽古の量を増やした。だからもう、王宮に不安はないぞ!」
「? お守りするのは、臣下の仕事です。つまり、僕の」
未来の国王陛下に守ってもらう存在など、それこそ王妃となる人物くらいではないだろうか。そんな事を考えつつ、僕は入り口を見た。本当にちょっと挨拶をすれば帰っていいと言われていたためだ。
「失礼します」
「っ……あ、あの」
「はい?」
「また……来てくれるよな?」
そんな予定は微塵もないが、引き止められるのも面倒だったので、僕は頷いておいた。
こうして帰宅してから――また僕は半年ほど、泣き真似をしていた。技に磨きをかける方向に調整をしたら、父の目がどんどん遠いものへと変わっていったが、父は半年間、何も言わなかった。だが、初夏のこの日は、またしてもつっこみをいれてきた。
「フェルナ、泣き真似はもうそろそろ卒業しなさい。お前ももう、八歳なのだから」
「……」
「ジャックロフト王太子殿下の生誕祭が行われる。出席するように」
「……贈り物のみではダメでしょうか?」
「だめだ」
「……はぁ」
今度は本心から泣きたい気持ちになりつつ、僕はその日、父が呼んだ商人が並べた玩具の中からパズルを選んで、プレゼントを決定した。
数日後。
昼間に行われた生誕祭の場に、僕は父と妹と共に参加した。セリアーナは着飾っていて、とても愛らしい容姿をしている。僕と同じ紫色の瞳で、髪の色は金髪だ。今のところ、妹には悪役令嬢らしさはない。まず僕達は国王陛下達にご挨拶をした。続いてジャック様のもとには、妹と二人で向かう事になった。
「ごきげんよう、ジャック様。お誕生日おめでとうございます」
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