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第6話
さらっと人の輪に入って、妹が優雅に声をかけた。僕はその横で、早く帰りたいと思いながら突っ立っていた。
「ご要望通り、兄を伴いました」
「あ、あ、べ、別に俺は要望なんて……!! 違う、違うんだ!!」
僕は近くのシャンパンタワーを眺めていたので、会話は耳に入ってこない。
「フェルナ、そ、その……元気だったか?」
「へ? ああ、はい」
呼ばれて気づいたので、僕はジャック様を見て、本日も身長の確認をした。まずい、追い越されている。靴のかかとを念入りに見てしまったが、偽装された痕跡はない。
「お二人は親しいのでしょう? 妹として嬉しいです。久しぶりなのですし、少し二人でお話されては?」
セリアーナが微笑して続けると、ジャック様が真っ赤になった。僕は泣く兆候かと感じ、慌てて否定した。
「セリアーナ、誤解だ。僕と殿下は親しくないよ」
「っ……フェルナ、そ、そんなにきっぱり否定しなくても……やっぱり、俺の事が嫌いになったのか……?」
それは前世の記憶が戻る前から、嫌いだ! だが、そんな事を言って気分を害したら、国外追放時期が早まってしまうかもしれない。
「畏れ多いというお話です。それに今日は殿下のための生誕祭なのですから、僕がお時間を頂戴するわけにはまいりません。ほら、ご挨拶は済んだのだし、セリアーナ、あちらへいこう」
僕が告げると、セリアーナが僕とジャック様を交互に見て、何故なのか残念そうに首を傾げた。
しかしセリアーナは特に何も言わなかったので、僕は妹を連れてその場を離れた。
九歳の一年間、僕は泣き真似の腕前をさらに鍛えた。目薬を用いるように進化した。その成果なのか、王宮には呼ばれなかった。父上と妹が時折打診してくるが、断っている。かわりに、弟がついていくようになった。弟ももう六歳だ。
僕は外国語の習得にも励んでいる。何処の国に追放されるのかは分からないが、そこそこ語学は上達を見せているし、読み書きが得意になってきた。多分僕がまじめに勉強している事も、父が僕のウソ泣きを見逃してくれる理由なのだろう。
こうして十歳になった年の冬……父上がやってきた。
「王宮から聖夜の日の昼間の交流会への招待状を預かってきた」
「いってらっしゃいませ!」
「お前宛だ」
「……僕、その日は風邪をひく予定なので」
「仮病はやめなさい」
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