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第17話

 ジャック様が、転んだ彼女を抱きとめた瞬間、僕は真横にいたのである。セリアーナと第二王子殿下に合流する予定で、たまたま一緒に本当に珍しい事に、一緒にいたのである。乙女ゲームのオープニングで見た通りだった。完全にジャック様のルートの冒頭である。  つまり三年後、僕は卒業パーティで婚約破棄される。  ここからおとなしく過ごさなければ。国外追放されても語学力は通用するだろうが、なるべく平穏な形がいいだろう。やはり幼少時にたちかえり、僕はあんまり接触しないで過ごし、会話も控えた方がいいだろうか。なんだか寂しいなぁ。 「フェルナ、どうかしたのか? 行くぞ」 「あ……はい」  気づくと出会いの場面は終わっていたようで、アーネの姿も無かった。  僕はそのままジャック様と廊下を歩いた。  ――ジャック様とアーネの接触頻度は、その後目に見えて増えていった。理由は二人とも、生徒会メンバーだからである。その内に、二人の関係について噂する声も出てきた。 「お兄様……放っておいていいのですか?」  図書館にいた僕のもとに、妹がやってきた。僕は素知らぬふりで顔を上げた。 「なにを?」 「……ジャック様に最近近づいている方が……」 「セリアーナ、なにもしないようにね」  僕はくぎを刺す事も忘れなかった。セリアーナは何か言いたそうな顔をしていたが、溜息を零して歩き去った。こうしてこの日も国外追放に備えて本を読んだのだが、全然頭に入ってこない。寮の部屋に戻ると鍵が開いていて、中に入るとジャック様がいた。その姿を見たらほっとしてしまったが、その内この光景は見られなくなるんだろうなぁ。 「フェルナ、最近落ち込んでいるように見えるぞ? なにかあったのか?」 「落ち込んでないですし、何もないです」 「そうか。俺でよければ、聞くが?」 「何もないので」  僕は断言してから、飲み物を見た。ジャック様が紅茶を淹れてくれた。  隣同士で長椅子に座り、僕はカップを受け取る。 「そういえばな、最近面白い後輩が出来たんだ。今度紹介したい」 「どなたですか?」 「アーネといって、生徒会で同じなんだけどな――」  その後笑顔でジャック様が、アーネがいかに有能かをほめたたえた。僕の胸が重くなっていったが、僕は頷くにとどめる。 「フェルナ?」 「はい?」 「なんだか今日は、やはり落ち込んでいないか?」

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