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中学編~第三話

それだけだ。反射神経や動体視力諸々は、父親と共に秘境を転々としていた頃に身に着けたものだ。 毎日練習に来ている他部員に示しがつかないのだということは分かっていたし、選手に選ばれて合宿などというのはごめんだったからちょうどいい。 お次は音楽の授業だったが、これも特に音感がないというわけでもなかったので問題なかった。強いて言えば、昔の日本の曲はあまり知らなくて歌詞の意味を理解するのに苦労したくらいだ。 リコーダーやなんかは持ってなかったから、ピアノで代用させてもらえた。楽譜は読めなかったが、隣の子の音色を聴いて弾いていた。日本の中学では普通なのか、琴の授業もあった。日本に来て、初めて触った琴の音色は心地よく耳に響いてくる。後にも先にも、琴に触ったのはこの授業でだけだった。 その他の教科もこれといって問題はなく、数学の教師が何かと余計な世話を焼いてくるくらいだ。 放課後は、彼女を家まで送って、友達と遊びに行って夜は雅やんの店に入り浸って、その日だけの夜を過ごす。しばらくしてできた彼女に対して罪悪感はあるけど、所詮どちらも遊びだ。本気の相手に出会えれば違うのかもしれないけれど。 「藤堂ー!今日どーするよ?投げ行く?」 仲良くなったやつらの最近のブームは、ボウリングらしい。おかげで、二日に一度はボウリングに付き合わされている。 「毎日毎日、ボウリング飽きないの?たまにはビリヤードとかダーツとかやればいいのに」 「だってルール知らねーし、そもそも面白いのかよ?」 「…お前らビリヤードバカにすんなよー。ルール分かったら、面白いから絶対!」 剣道部の大会がない時は、毎日こんな調子で彼女と友達との約束を熟す。 休みの日は、駅前のジムに行って身体を鍛えたりして過ごす。いくら成長期とはいえ、人に身体を見せる以上、ある程度引き締めておきたい。 あれから巽には連絡を取っていない。あの日書かれていたアドレスに、一言添えて自分のメアドと電話番号を添付して送ったけれど、返信はなかった。 そのあと何度か連絡しようと思ったが、仕事が忙しいのかもしれないと思いやめておく。そうして繋ぎとめようとしなくても、巽とはまた会うような予感がするのだ。

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