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第10話 飲み過ぎた

 九時に閉店し、片付けをして終わったのが九時十分頃だった。  社員である武藤さんはバイトの俺たちよりも少し遅い。  喫煙室で煙草を吸いながら待っていると、武藤さんからメッセージが届いた。 『お待たせ。終わったけど煙草かな?』 『はい。もうすぐ吸い終わるんで、待ってて下さい』  そう返信して、俺は急いで電子煙草の吸い殻を捨て、喫煙室を出る。足早に廊下を歩いて行く従業員たちの中の向こう、壁に背をつけてスマホを片手にした武藤さんが立っていた。  彼はにこっと笑い、俺に向かって手を振る。 「お待たせ。じゃあ行こうか」 「はい」  武藤さんにくっついて、俺は店の外に出た。夜の風は少し冷たい。明日から雨らしく空は雲が覆っていた。  夜の九時を過ぎていることもあり人通りは少なく、行き交う人々の大半はスマホに視線を落として足早に歩いて行く。  居酒屋が多いのは駅の反対側になるため、俺たちは駅を突っ切り歩いていた。 「どこの店行くんですか?」 「チェーンのお店だよ。居酒屋が沢山入ってるところの二階」  そこは少し高めな店なんで学生である俺たちは余り行かない店だった。 「アンケートに答えて抽選で当たるってやつで当たったんだけど、なかなかこの店こないからさー」 「先週飲みに行ったんじゃなかったんすか?」 「その時は違う店に行ったし、人数も多かったからさ」  と言い、武藤さんは苦笑した。 「五千円じゃあ、全員の分にはならないしちょっと高めだからなかなか行こう、て言いにくくて」  まあ確かに。  バイトは学生が多いし、武藤さんは飲みに行くと多めに出してくれるからそんなに負担してらんねぇもんな。 「でも明日までだからどうしようって思ってて、神代君がいてくれて助かったよ」  俺としてもこの間合コン行ってあんまり金ないから有り難い。    少し歩いて店に着く。土曜日と言う事もあり店は空いていた。  席に着き、タブレットから注文したい品を決めて注文し、品物が運ばれてくるのを待った。 「神代君と飲みに来るの久しぶりだよね」  そう言われて俺は記憶をたどる。  武藤さんとは月に一度は飲みに来ていたっけ。でもここ一か月は何しても気分が乗らなくて断ってたもんな。   「ちょっと体調悪かったっすからね」 「そうだねぇ。でも最近だいぶ顔色いいよね。ちょっと心配してたから良かったよ」    そこに酒が運ばれてくる。  ビールとポテト、サラダに串揚げの盛り合わせもテーブルに並び俺たちは乾杯をした。  そして一気に半分ビールを飲み、ちょっと気分がよくなる。 「仕事中、なんかきつそうだったし大丈夫かなって思ってたけど」  そう言って、武藤さんはビールを飲み、箸を手にしてサラダを小鉢に分けてくれた。 「ちょっと体調悪かったっすけど、最近は大丈夫ですよー。それより武藤さん、最近何かゲームしてますか?」  分けてもらったサラダを受け取り、俺は尋ねた。  職場が玩具やゲームを扱ってるからその手の物が好きな従業員が多い。  武藤さんは結構ゲームをやる人で、毎年ゲームショウにも行く人だ。 「FPSばっかりだよねー。もうすぐRPGの新作出るじゃない? あれまだ買おうか悩んでるんだ」  やっぱ皆FPSだよな。  俺もそうだけど。 「俺もそうっすよー。あ、ビール追加頼んでいいっすか」 「いいけど……飲むの早くない? 大丈夫?」  そんな心配げな声に俺は笑顔で大丈夫、と答え、ビールを注文した。  それからどれくらいたっただろうか。  ビールを二杯。それにレモンハイに梅酒も飲んだ。あと……何飲んだっけな。  かなりいい気分で武藤さんとゲームの話とかして、時間が経った頃。 「むとーさん、DomとかSubとかどー思います?」  ずい、と武藤さんに顔を近づけ尋ねると、武藤さんは焼きおにぎりを手にして目を大きく見開いた。 「え? ちょっと急にどうしたの。始めて言われたよ、そんなの」 「えー、だって、少ないけどいるじゃないっすか。毎年健康診断受けてそれでそういう診断受けたらなんか病院行かなくちゃなんでしょ?」 「そう、みたいだけど……俺はノーマルだし……ていうかそう言う話題って親しい友達でも話さないよね?」 「でしょー? 俺も詳しく知らねえしー」 「俺もよくは知らないけど……ねえちょっと、神代君大丈夫?」  心配そうな武藤さんの声が響く。   「大丈夫ですよー」  ぼんやりと答え、俺は首を横に振る。  あー、視界がぼやけてる。  そうだよなぁ。ノーマルならDomとかSubとかに振り回されなくて済むんだよなー。だって俺もそうだったし、そんなの考えたことなかったもん。  でも今、俺はそんな『性』に振り回されてる。  本当に俺はSubなのか確認するのが怖くて、病院にも行けていない。 「ねえ、ひとりで帰れる?」  帰れるかなぁ。どうだろ?  すっごくぽやーっとしてる。 「とりあえずこれ食べたらお店でよう?」 「えー? もうっすか?」 「うん、だって神代君、けっこう飲んでるしそれに危なそうだから」  と言い、武藤さんは焼きおにぎりにぱくついた。  会計を済ませて店を出る。  あー、足取りやべえかも。もしかしなくても飲み過ぎた?  この間シュウさんと初めて会った時もそこそこ飲んでたけど、それよりも飲んだかもしれない。  帰れるかなあ……あー、わかんねぇ…… 「帰れなさそうならほら、タクシー呼ぼうか? 家どこだっけ」  そんな武藤さんの声が聞こえるけれど俺は何も言えず、心配げな顔をする彼に抱き着いた。  もっと構ってほしいのに、あの人は連絡をくれないし、でも俺から連絡するのは気がひける。  俺、あの人の前でオナニーまでしてるのになんでこんな放っておかれるんだろ? 「やだ。このまんまがいい」 「ちょっと、かなりやばくない? とりあえずタクシー乗り場行こう」  武藤さんの慌てたような声が響く。  その後もなんか色々言われた気がするけれど、俺は何にも答えられなくて気が付いたら知らない部屋にいた。

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