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第40話 おちていく

 八月中にはアパートに帰るつもりだった。  なのに俺は結局、九月になってもシュウさんの家にいる。  帰りたくないから。  俺はまだここにいたいから。  プールのバイトも終わり、俺はシュウさんの家にいる時間が増えた。  できればずっと一緒にいたいけど、俺もシュウさんもバイトがある。  ここから量販店のバイトに行き、友達と遊び、武藤さんたちとも遊んだ。  彼の部屋であった食事会で飲むことになったけど俺は飲まないようにしたせいか、武藤さんは普通だったな。  俺が飲まないから他のバイトに不思議がられたけど、そんな気分じゃねえ、で乗り切った。  あれから武藤さんがどうなったのか、俺は聞けていない。  強い薬を出してもらえたんだろうか。少しは落ち着いたんだろうか。  帰りに一緒になることはあるけど、互いにDomとかSubの話はしなかった。  武藤さんの俺への態度は変わらない。  顔を合わせればゲームの話やアニメの話をして、以前と変わらない感じだった。  これでいいんだよな……武藤さんに俺ができることなんて、何にもないし。  シュウさんも武藤さんについて何も言わなくなった。  ある日バイトから家に帰ると、シュウさんは俺の首からドッグタグを外し、首輪をつけながら言った。 「Domに出会わなかった、大丈夫?」    そんなこと言われても俺、相手がDomかどうかっていまだによくわかんねえんだよな…… 「やっぱ、パートナーがいても違うDomに惹かれるんすか?」 「それが人によるみたいだから、心配してるんだよ」  と言い、シュウさんは心配げな顔をして俺の頬に触れる。  今のところ、俺はDomに会ってない、と思う。  そもそも数が超少ないらしいから日常生活でそうそう会うことなんてねえだろうに。  ……でも俺、接客業だし客の中にいるとかありえるか。  武藤さんみたいなDom寄りのノーマルなんていう存在もいたしな…… 「でも俺、シュウさんじゃないと嫌だ」  言いながら俺は、その首にしがみ付く。  他の誰かのコマンド聞くなんて、俺には耐えらんないし想像もつかない。 「シュウさん……俺、ずっとここにいたいからぁ……」  じっと顔を見つめて言うと、シュウさんは俺の頭を撫でながら言った。 「あはは、そう言ってくれるなんて嬉しいよ。だけど……夏休み終わったらアパートには帰ろうね。家賃だってかかってるんだからずっと留守にするわけにはいかないでしょ?」  言いたいことはわかる。  確かに家賃、もったいねえもんなぁ……  そもそも家賃の一部は親が払ってる。  それを思うとちょっと心が痛い。   「そんな悲しい顔しなくても、いつでもここには来られるんだから」    やっべ、俺そんな顔してた?  俺は頷き、 「週末は泊まっていい……?」  と、遠慮がちに尋ねた。  するとシュウさんは頷き、 「大丈夫だよ」  と、答える。  よかった。  シュウさんのいない時間なんて今の俺には考えらんない。  六月に、シュウさんに初めて会った時はこんな感情なかったしSubだってこと受け入れられなかったのに。  今の俺はDomであるシュウさんから離れられなくなっている。  無自覚だった俺を目覚めさせたのはシュウさんだろうか。  きっかけは武藤さんの存在だったのかもしれないけど、ここまでSubとして目覚めたのはシュウさんのお陰だろうな。  あのわけのわからない体調不良とは無縁になったし、むしろ体調は超いい。  シュウさんの言われるままに身体開いて、自分でしたり、それでシュウさんが悦ぶ姿が嬉しくてたまらない。  考えてたら身体の奥が疼きだす。  「ねえシュウさん」 「何?」 「俺、早く遊びたい」  うっとりと告げると、シュウさんは部屋の時計へと視線を向ける。  今日、バイトは三時までだったからまだ四時位なはずだ。   「夕飯まで少し時間があるし……じゃあ少しだけ遊ぼうか」  そう言われて俺は嬉しくなり、彼から腕を外して顔を見る。  シュウさんは眼鏡を外すと、俺の顔をじっと見つめて言った。 「漣、上だけ裸になってお座りして?」  その言葉に反応して俺は、白い半そでのワイシャツとTシャツを脱ぎ、その場に座り込んだ。  何して遊ぶんだろ?  俺を見下す射るような瞳が、俺の羞恥心を煽る。  綿パンのなかで弄ってもいないペニスがどんどん硬くなり、先走りを溢れさせて下着を濡らす。  やばい、これじゃあ目だけでイっちゃう。  ねえシュウさん、俺のこといっぱいにして?  無自覚だった俺は彼の手に堕ちていく。  そのことに幸福感を覚えながら俺は、シュウさんの言葉を待った。

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