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5.
校内の廊下に置かれているテーブル席に着いた二人は、抱きかかえていたタオルをテーブルに置き、解いた。
先ほど見た卵が一つもヒビ割れずに姿を現した。
「本当に、割ってもいいんだよな?」
「うん、いいよ」
緊張のした面持ちで頷く。
すると、黄丹は手に取って、とんがっている部分を軽く叩いて、ヒビを入れた。
そのような入れ方をしたのは、今受け皿がなく、中身が零れないようにするためなのだろう。
ヒビを入れた部分から慎重に殻を取り除いていく。
その様子を緊張気味で見守っていた。
それから、余裕で中が見えるほどの穴が出来た時、黄丹が覗いた。
「どう? 何かあった?」
「んー⋯⋯⋯⋯ないな」
「ない?」
「そう、何もない」
「ほら、見てみろ」と言う黄丹から渡された卵の中を覗いた。
彼が言っていた通り、どんなにじっくりと見ても空洞が広がるだけで、黄身すらなかった。
「こんなことってあるの? いや、そもそも人間が卵を産むってことすら、理解が出来ないことだけど」
「⋯⋯亀の無精卵みたいだな」
独り言のように呟いた言葉を聞き返すと、黄丹はある話をした。
昔、縁日で釣り上げた亀を飼っていたのだが、数年経ったある日のこと、餌をあげようとした時、繭のような形の白い物が水中に浮かんでいたのだという。
長年性別が分からなかったのがハッキリと分かり、同時に亀島と仮に呼んでいたのを、カメ子と名付け直したのだという。
「で、その肝心の卵を開けてみたら、今みたいに何にもなかったわけだ」
「オスがいるから卵を産むかと思っていたけど、違うんだね」
「亀の場合は、排卵の意味があるみたいだ。だが、産むにもかなりのリスクがあるみたいだな」
「リスク、って⋯⋯?」
携帯端末を取り出していた黄丹が、やけに真面目な口調で言うものだから、神妙な面持ちで聞き返した。
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