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第1話 序章

 濡れて厚みのある舌が唇の間から滑り込んできた。  顎に掛かった指に緩めるようにと促され、シェイドは噛みしめていた歯を薄く開いた。途端、長い舌が口の中さえ犯すようにぬるりと入り込んでくる。我が物顔で歯列を辿り上顎を擽った肉の塊に、奥に逃げた舌さえも絡め取られると、背筋を息詰まるような震えが走った。  ――――怖い。  四つ年下の、若々しく力に満ちた逞しい肉体。剣を握る太い腕は、シェイドの痩せた体を軽々と持ち上げ、好きに扱うことができる。それを留める者などこの国には只の一人もいはしない。シェイドは神の前に捧げられた生け贄の供物のようなものだった。  半年前の引き裂かれるような交合が脳裏に蘇って身が竦んだ。その体を太い腕がかき寄せる。 「お前を、俺のものにしたい……」  耳朶を震わせたのは情欲に掠れた低い声。  異国風の、この国の人間とは明らかに違う異様な姿になぜそれほど執着されるのか、シェイドにはまったく理解できない。深く被った頭布で全身を覆い隠し、王宮の片隅で息を潜めて生きていたのに、突然日の当たるところへ引きずり出されて王の寵愛を受けることになるなど、まるで悪夢だ。ましてや、この身は半分きりと言えど血の繋がった兄であるのに。 「……っ」  体の中心に濡れた指が絡んだ。ゆるゆると上下されると下腹に熱が溜まっていく。愛撫を受ける胸の突起が痛いほど張りつめ、快感とも寒気ともつかぬ感覚に肌が粟立った。早く終わって欲しいと願うのに、今日の王の手には以前にあったような荒々しさも性急さもない。  両手に敷布を握りしめ、シェイドは徐々に大きくなっていく波のような感覚に耐えるしかなかった。今からでも逃げ出したい。だが、逃げていく先などない。  自分ではどうしようもない熱の疼きに耐えかねて、思わず背けるように顔を反らすと、顎を掴んだ指に正面へと戻された。 「……果てる時の顔をみせてくれ」  頬を隠した髪も指先で退けられ、痛いほどの視線を感じて顔が熱くなった。  長い白金髪と白い肌、固く閉じた瞼の下の蒼い目。シェイドの髪と目の色は、この国の人間にはない色だ。それは身分卑しい異国人の血を引いた証であり、このウェルディリア王国においては侮蔑の対象となっている。  醜い姿を隠すことも許されず、一糸纏わぬ裸で王の寝所に侍らねばならないこと自体が、シェイドにとっては針で刺されるような苦痛だった。しかもそれを目に収めているのは、国の守護神の尊い姿をそのまま写し取った、まさに神の末裔ともいうべき王その人なのだ。 「……ぁ、……あ……ッ!」  抑えきれない小さな声を上げて、シェイドは薄い腹の上に蜜を飛び散らせた。骨張った指に最後の一滴まで絞り立てられて、知らぬうちに腰が揺れる。疼きにも痺れにも似た甘美さに酔いしれていると、腹に散った蜜が指に掬い取られ、汗ばんだ脚が大きく開かれた。両脚の間を良く引き締まって筋肉質な体が割り入ってくる。  足の間、一度手ひどく傷つけられたことのある窄まりに濡れた指が触れたとき、シェイドは恐怖を抑えきれずに引きつった声を上げた。固く侵入を拒む肉を裂くように、力尽くで体を拓かれたあの夜の苦痛が閉じた瞼の裏にまざまざと蘇った。  半年前のあの嵐の夜、シェイド・エウリートは王の手の中で一度死んでいた――――。

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