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運命の出会い(黒井 side)

僕は昔から何も趣味がない。特技もなければ友達もいない。みんなで流行りのテレビの話をしたり、騒いだり喧嘩したりするあの雰囲気が苦手だった。僕はいつしか1人を好むようになった。当然そんな僕に話しかける人なんてほとんどいない。僕はクラスの中でも浮いている、つまらない人間だ。本当に退屈な日々だった。 そして僕は高校に入学した。特に行きたい高校もないから近くのところを選んだ。また今までと同じように空っぽな毎日を送るのかな、と思っていた。 入学式の日のこと。クラス一覧を見た後、僕は教室を探した。ところがこの学校、無駄に校舎が広いからどこに教室があるのかがわからない。集合時間まであと10分。まずいな、流石に初日から遅刻は目立ってしまう。場所を聞こうにも周りに人がいない。どうしよう……職員室すらどこにあるのか見当たらない。 慌てて道を探していると、後ろから声をかけられた。 「もしかして、新入生?」 振り返ると、そこには眼鏡をかけた男子生徒がいた。 「あ、は、はい……」 「やっぱりそうか!制服とか鞄が新しい感じがして。教室探してるのか?」 「はい、迷子になってしまって……」 まさかのその人に道に迷っているのがバレてしまった。どんだけきょろきょろしてたんだろ、僕。でも人がいて助かった。 「何となく場所がわからなくて困ってそうな気がしたからさ……。何組?」 「えっと、4組です」 「4組はこの渡り廊下を歩いて1番右奥のところにあるよ」 「あ、ありがとうございます……!」 どうやら隣の校舎にあるようだ。この人がいてくれてよかった。僕はお礼を行って去ろうとした。その時、男子生徒が再び声をかけた。 「俺は1年6組の赤坂って言うんだ。よろしくな」 白い歯を見せて笑った赤坂くん。彼も新入生だという。すごく落ち着いた雰囲気だから先輩だと思っていた。 「黒井と申します。よろしくお願いします」 「タメ語でいいよ、同い年なんだし。この高校、校舎が何個もあってわかりづらいよな。慣れるまで時間がかかりそうだ」 「赤坂くんはどこの校舎なの?」 「俺はここの4階。トイレに行ったら混雑してたから、ここまで降りてたんだ」 赤坂くんは終始優しそうな笑顔で話していた。迷子の僕に話しかけてくれて、目線を合わせてくれる。家族以外の人と話すなんていつぶりだろうか。心があったかくなる。 本当はもっと話していたいけど、あと少しで集合時間になってしまう。僕はもう一度頭を下げて赤坂くんと離れた。なんていい人なんだろう。困っている人を助けてくれる、親切な人。眼鏡越しに感じる温かい眼差し。眩しい笑顔に、ほどよく低くて心地いい声。少し細い体に、全てを包んでくれそうな手。高校1年の春。僕は彼に一目惚れしてしまった。生まれて初めての感情。これが僕の初恋だった。

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